IBMは、スマートフォン用アプリ「The Weather Channel」向けに、ピアツーピア(P2P)通信で災害時のアラートなどを送信できるシステムを開発した。セルラーネットワークがダウンしていても、スマートフォン同士が次々にメッシュネットワークを形成することで、天気の情報や災害時のアラートをアプリで通知することができる。
IBMは、米国ネバダ州ラスベガスで開催した「IBM PartnerWorld Leadership Conference 2017」(2017年2月13〜16日)において、同社のコグニティブ・コンピューティング・システム「Watson」を使ったアプリ「The Weather Channel」向けに、ピアツーピアの通信機能を開発したことを明らかにした。The Weather Channelを開発したThe Weather Companyは、2016年にIBMが買収している。
The Weather Channelは、アップデートを無料で提供するという。このアプリを既存のスマートフォンで使用すると、インターネットやセルラーネットワークがダウンするような緊急事態でも、最新の気象情報を入手できる。Wi-FiまたはBluetoothを利用して、ピアツーピアのメッシュネットワークを形成することにより、The Weather Channelに接続できるという。
ピアツーピアのメッシュネットワークは、セルラーネットワークのカバー範囲にばらつきがある発展途上国において非常に役立つといえる。
ユーザーが、自分の地域にある既存の携帯電話基地局のカバー範囲外に移動した場合に、使用している携帯電話機のWi-Fiトランスミッター(Wi-Fiが使用不可の場合はBluetoothトランスミッター)で、基地局の範囲内にいる最寄りのユーザーを検索するという。その携帯電話機がホットスポットとして機能し、The Weather Channelのコンテンツを、基地局の範囲外に存在するユーザーの携帯電話機に伝送する。それと同時に、そのユーザーの携帯電話機そのものが、主要な基地局からはるか遠く離れた別のユーザー向けのホットスポットになるのだ。
ユーザーが最寄りの基地局からさらに離れていくと、これらのユーザーの携帯電話機が、もっと遠く離れた携帯電話向けのホットスポットとしてメッシュネットワークを形成することにより、基地局間の隙間を埋めていく。万が一、基地局が完全に故障してしまった場合には、The Weather Channel専用のWi-Fi基地局が放送の発信元となり、完全なWi-Fiピアツーピアネットワークを形成するという。
通常、このような種類のピアツーピアネットワークは、常時ホットスポットモードで機能しているユーザー端末のバッテリーを消耗させてしまうことから、一般的な用途向けとして使われることはない。しかしIBMは、ホットスポットの利用を、低ビットレートの情報を短時間に送るという用途に限定し、気温や降水量、地図などの重要なデータや、津波の到達予想時刻などの緊急警報だけを十分に更新できるようにした。こうして集中的に使用することにより、オンライン上での通常の携帯電話接続の場合と比べて、消費電力量が少なくなるため、ユーザー側の電池寿命に悪影響を及ぼすことはないという。
この「Mesh Network Alerts」サービスは、まずは最も必要性の高い発展途上国42カ国において利用を開始する予定だという。これらの国々では、基地局が不足していて、都市環境以外の地域ではまばらにしか存在せず、一方の都市環境では過密状態にある。IBMは、「ピアツーピアは、既に存在している技術であるため、ドローンやバルーンよりも優れたソリューションだといえる。さらに、メッシュネットワークは、1つの情報に対して複数のルートを提供することで、より多くのユーザーに対応可能なため、ユーザーが多すぎて混雑状況に陥るようなことにはならない」と主張した。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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