こんにちは、江端智一です。
今回の前半では、CSAJでの研究講演会の内容(一部)をお話し、後半ではAI技術の1つである「ゲーム理論」について解説します。
さて、以前にも、第3回の「笑う人工知能 〜あなたは記事に踊らされている〜」で第1次、第2次の人工知能ブームにおいて、かなりいい加減な予測を発言した人がいる、という話をしました。
今回の講演に際してあらためて調べてみたのですが、同様の発言が山ほど見つかりました。ここまで徹底していると、逆にすがすがしいくらいだなぁ ―― と思うくらい、たくさんあります。
その代表例が、「『AIが人間に取って代わる』発言」なのですが、今回のCSAJの講演では、1965年から現在に至るまで、そのような発言をした3人の世界的な人工知能の権威を、嗤い(×笑い)者にしてきました。
彼らがこのような発言をしてきた背景には、(これも既にお話しましたが)コンピュータの性能が上がりさえすれば、人工知能の課題は全て解決する、という思い込みがあったと考えられます。
確かに、数理系の技術においては、あるコンピュータリソースが一定のしきい値を超えた瞬間に、爆発的に効果を発揮するものがありました*)。
*)例えば、ベイジアンネットワークなどは、古くからその計算手法は明らかだったのですが、膨大な計算が必要だったため、かつてはメインフレームですらその計算が追い付きませんでした。ですが最近は、私の自宅のPCで、数万件以上のデータをサクサクと処理できてしまいます。
そのように考えれば、第1次ブームや第2次ブームの博士や教授の、この「根拠なき予測」の発言は、ある程度、配慮されても良いのかもしれません(が、それらを定量的な根拠もないままに発言していたのだとしたら、「無責任」のそしりは免れないでしょう)
さて、今回の第3次ブームにおいて「AIが人間に取って替わる」と公言している各分野の著名で高名な皆さま。
「記事の冠に『○○予測』という文字を付けておけば、何を言っても、何を書いても許される」なんて、まさか思っていませんですよね。
エンジニア、研究員、科学者であれば、『予測』と記載する以上、定量的な根拠を示すデータ、プログラムが付与した上で発言しなければならないのは、当然のことです。
『(その予測の年がやってくるころには)私は引退している』とか『私は、既に鬼籍(きせき)に入っている』とか、その程度のことで、私があなたを見逃がすなどとは、ゆめゆめ思わないでください。
私は、『予測というものは外れても良い』と思っていますし、『予測は外れるものだ』とすら思っています。しかし、予測が外れて許されるのは、『予測が、現時点におけるデータと、考えられる根拠やロジックに基づいて導かれている場合』に限られます。
シミュレーションも行わず、データも示さず、「あと20年後にAIで○○ができる」と、軽いノリで語る、博士や教授、そして、ありとあらゆる権力や権威を、私は、私の命のある限り、嗤い続けてやると誓っております。どうぞ覚悟してください。
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