今回の第3次ブームでは、ありとあらゆる新しいコンピュータアルゴリズムを、「人工知能」と言い直させているところに、第1次、第2次ブームにはなかった(正直に言えば)悪意や圧力を感じます。
次の発言は、囲碁ソフトに造形の深い友人のものです。
「江端さん。私は『人工知能』なんぞ作っているつもりはありません。私が作っているのは『囲碁ソフト』です」
このように、何でもかんでも『人工知能』という用語を無理に使わせる最近の潮流(または圧力)が、開発現場近くの技術者たちを、酷く不快な気分にさせていることは、皆さんにも知っておいていただきたいと思うのです。
私たち技術者は、自分たちの技術に誇りを持って研究開発をしています。
自分たちの技術が、どこぞの誰かがPR目的で持ち込んだ、『人工知能』などという空虚な単語で称呼されることを歓迎している技術者など1人もいません*)。私たちは、「上からの指示」または「予算獲得」のために、しぶしぶ『人工知能』という単語を使っているにすぎないのです。
*)もし、歓迎している技術者の方がいらっしゃったら、インタビューさせてください(「over_the_ai@kobore.net」にご連絡ください)
そして、この第3次ブームがどのように終わるのかは不明ですが、私は、このブームも絶対に終わると確信しています。
なぜ「絶対」なのかと言えば、人工知能の技術は「失敗」すれば、当然消えていきますが、「成功」しても、同じように消滅してしまうからです。
今回、私は、1991年に発刊された「人工知能大辞典」(大須賀 節雄 丸善、1991年)という本を、市営図書館の司書の人に頼んで、書庫の奥から出してもらいました。
この本は、第2次ブームを調べる上で参考になる ―― と考えたのですが、『サイズはデスクトップPCと同じで、重さはそれ以上』という、想像を絶する大きな本だったので、見た瞬間に読むのを断念し、目次と索引のコピーを取って、その本を、その日のうちに返却しました。
この本の目次には、221項目ものAI技術が列挙されていたのですが、私がビックリしたのは「これって、AI技術だったの?」というものが入っていたことです。もし、1991年の段階で、これらがAI技術として認定されていたのであれば、現在、人類は、かなりの数のAI技術を確立し、商用ベースで実際に使用していることになります。
これらの技術のいくつかは、既に私が書いていますので、ご参照ください。
この他にも、Unityを使って1時間でゲーム(サンプル)が完成してしまった時には、本当に腰が抜けそうになりました(ブログ)。
私たちが頭の中でイメージしたものを、こんなにも簡単に仮想世界に展開してみせるものがあるのです。これをAI技術と呼ばずして、一体何をAI技術と呼ぶのだ? と思ったものです。
1991年の段階においては、初音ミクも、MMDも、Unityも存在していませんでしたが、この本は、これらの技術がAI技術であると定義していたのです。
つまり、現在、かなりの数のAI技術が、既に具現化され実用化されているのです。
しかし ――
ひとたび、実用化されてしまえば、AI技術として認識されなくなる
これが、AIの第3次ブームが、どのような形になろうとも必ず終わる、という根拠です。
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