話題をバベッジの定義に戻そう。バベッジの分類が実験データの改竄に詳しいのは、偶然ではない。論文「英国の科学が衰退しつつあることへの意見」では、「捏造」に関しては「幸いなことに捏造はまれなことである」(p.177)と述べている。
「トリミング」と「クッキング」については、「トリミング」は罪が軽く、「クッキング」は罪が重いと断じる。なぜならば、「トリミング」の有無に関わらず、実験データ群の平均的な値は変わらないからだ。つまり、結果や結論などへの影響はほとんどないと考えられる。
ところが「クッキング」を実行すると、実験データ群の結論が変化してしまうとともに、測定結果(あるいは観測結果)の精度が実際以上に高くなってしまう恐れが生じる。従って「クッキング」は、「トリミング」に比べるとはるかに悪質な行為であるとバベッジは指摘している(pp.177-183)。
バベッジはなぜ、このような論文を執筆したのだろうか。論文のテーマである「英国の科学の衰退」は、当時の英国科学界における研究不正(バベッジによると欺瞞行為)が関係しているとみられる。バベッジの論文は捏造の事例は具体的に示しているものの、記述は短く、簡潔である。トリミングについても記述は短い。しかしクッキングに関する記述はかなり長いにもかかわらず、具体的な事例は提示されていない。クッキングを実行した人物(科学者)を知りながらも、具体的な告発は避けているように読める。
近代の研究開発における不正行為が、最近の歴史的研究によっていくつか指摘されている。その代表が、英国の天才科学者で、17世紀から18世紀にかけて大活躍したアイザック・ニュートン(Isaac Newton)であることは、かなり衝撃的だ。(文中敬称略)
(次回に続く)
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