東京コンサルティングの杉谷と若菜は、須藤たちにプロジェクトの骨子の1つとなる業務プロセスについて話し始める。それは職場の「見える化」と「言える化」を並行して進めることでもあった。ただし杉谷と若菜は、「大切なのは、コンサル会社に頼ることではなく、常に自分たちが“当事者”となることだ」と、こんこんと説く。
「“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日」バックナンバー
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第1回 | もはや我慢の限界だ! 追い詰められる開発部門 |
第2回 | 消えぬ“もやもや”、現場の本音はなぜ出ない? |
第3回 | 始まった負の連鎖 |
第4回 | たった1人の決意 |
第5回 | 会社を変えたい――思いを込めた1通のメール |
第6回 | エバ機不正の黒幕 |
第7回 | 450人が去った会社――改革の本番はむしろこれから |
第8回 | 改革は“新しい形のトップダウン”であるべきだ |
第9回 | “不合理さを指摘できる組織”に、それが残った社員の使命だ |
第10回 | 現場の「見える化」だけでは不十分、必要なのは「言える化」だ |
須藤たちのプロジェクトの目的は、『エバ機不正問題』と『湘エレの立て直し』の2つだ。ただし、これはあくまでもプロジェクトのコアメンバーに限ったもので、表向きは『湘エレの立て直し』のみである。しかし、エバ機の開発に関わった須藤たちからすれば、不正については、何が何でも暴いてやらなければ気が済まないという気持ちは強かった。
先日、Tコンサルの杉谷と若菜が「見える化」と「言える化」を須藤たちに説明したが、特に「言える化」は、メンバーたちにとって大いに納得がいくものだった。湘エレに残った社員の使命は、「おかしいことはおかしい」と堂々と言える組織にすること。不合理さをお互いに指摘できるような組織にすることなのだ(第9回「“不合理さを指摘できる組織”に、それが残った社員の使命だ」)。
須藤:「杉谷さん、業務プロセスがハードとソフトをつなぐキーになると言ってましたよね。でも、何だかいまいちピンと来ないんですけど……」
杉谷:「先日、“言える化”の話をしましたね。ですが、湘エレ社内で、『さぁ皆さん、これからはコミュニケーションを良くしましょう』と言ったところで、本音の話などこれっぽっちも出てきませんよね」
須藤:「確かに……」
杉谷:「どこの会社でも今や、コミュニケーションの大切さは分かっています。しかし、どうすればコミュニケーションが良くなるのかは、皆、手探り状態です。そして、“上司と部下で1日20分、会話をする時間を取りましょう!”と一様な施策をとる。こんな形式的で意味のないものはありません。また、“皆さん、本音をどんどん言ってください”と提示したところで、そもそも本音が出てこない、おかしいと言えないことが問題の組織においては、本末転倒ですよね」
須藤:「うちの会社も以前は似たようなことをやった時期がありました。バカらしいと思いましたが……それで、業務プロセスとの関係性は何ですか? 既に当社にはISO9001の業務フローならありますけど」
杉谷:「プロジェクトの目的は会社の立て直し、すなわち、会社を良くすることです。湘エレにはびこる悪しき組織風土を変えていくと同時に、利益が出る企業にしていく。そのためには顧客満足度の高い製品を効率的に開発すること。そして、コストは下げるが品質は落とさず、むしろ向上できるような、設計から製造までのプロセスを実現すること。これらを戦略的に進めながら、社員の働きがい、満足度も高い組織に……」
若菜:(杉谷の話を途中でぶった切る)「話、長〜〜〜い。簡単に言えば、湘エレと湘エレの製品に誇りを持ってもらうってことよ。須藤さんだって、会社と製品が大好きで入ったんでしょ? ちょっとこの絵を見てもらえますか?」
若菜は、「見える化」でできることや、その過程において「言える化」をどう組み込んでいるかを説明した。その説明はこうだ。
業務プロセスを「見える化」することで、業務フローが出来上がる。図の左上の部分(緑色)は業務フローが必須な項目を示しているが、ここでは無視してもらって構わない。
注目してほしいのは、図の右側だ。業務フローを使って何ができるかを示している。右上(水色)は改善・改革で効率化や標準化などである。右下(黄色)は経営や組織の改革だ。これらを行うための、「問題発見・問題解決のツール」として業務フローを用いる。一方、図の左下(ピンク)は「見える化」をする際の間接的効果として「言える化」を示している。「問題の顕在化やコミュニケーションツール」として業務フローを用いている。
*)当社(株式会社カレンコンサルティング)では「見える化」のことを「業務モデリング」と呼ぶ。
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