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常識外れの“超ハイブリッドチップ”が支える中国格安スマホ製品分解で探るアジアの新トレンド(16)(3/3 ページ)

» 2017年05月15日 11時30分 公開
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共通のチップを使う

 図3は、MT6580のチップの配線層を剥離し内部を観察した様子である。RFトランシーバー(2G、3G、Wi-Fi、BluetoothおよびGNSS)、各種メディア機能、汎用CPU、通信用プロセッサなど、通常は3チップで構成されるものが、たった1チップに収まっている。

図3:「MT6580」は完全な“オールインワン・チップ”である(クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 これは脅威的な技術である。特性の異なる通信や、性質の異なる信号処理を1チップに収めることは、異物混在としてチップ屋にとっては最も難解な仕事の1つであるからだ。

 こうした“超ハイブリッドチップ化”によって、大幅なコスト削減を可能にし、その結果、54米ドルという低価格のスマートフォンが誕生したわけだ。ちなみにMT6580のチップ面積は、ほぼ5mm角である。極めて小さなサイズに上記の機能を盛り込んでいる。通常3チップ必要だったものが1チップで済むことは、基板設計も容易にし、フットプリントの大幅な削減にも寄与している。

 MT6350でも同様に、電源ICとオーディオICという、通常2チップで構成されるものが、1つに集約されている。

 通常は5つのチップから成るチップセットが、たった2チップで構成されていることになる。実に6割も部品削減が行われているのだ。

 図4は、MT6580のパッケージ内部と、別製品で使われている通信チップ「MT6627」(Wi-Fi/Bluetooth/GNSS/FMに対応)の内部を比較したものである。機能チップは別々だが、アンテナスイッチのチップは同じものが使われている。

図4:MediaTekの「MT6580」「MT6627」には同一アンテナスイッチが使われている(クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 数年前までのMediaTekは、アンテナスイッチのようなチップを扱っていなかった。しかし、さまざまな通信が使われるようになってから、それらの通信機能を自らのチップ内に搭載するようになった。

 以前は別のメーカーの製品を用いて実現していた機能を、現在は自社のチップに搭載している。これは、従来メーカーが弾き出されたことを意味する。しかも、同じアンテナスイッチをMT6580とMT6627といった異なるチップに組み込み、それぞれに同じ特性を提供できるとともに、部品と共通化することでコストダウンにも寄与している。

 こうした工夫の積み重ねが、54米ドルのスマートフォンを生み出し、支えている。果たしてこの価格、そして、このスマートフォンの内部構造を今の日本メーカーが実現できるだろうか――。一考する必要があるだろう。なぜなら、ここで紹介した設計上の工夫は、IoT(モノのインターネット)のエッジ側端末に搭載するチップの在り方にも十分、通じるからだ。

執筆:株式会社テカナリエ

 “Technology” “analyze” “everything“を組み合わせた造語を会社名とする。あらゆるものを分解してシステム構造やトレンドなどを解説するテカナリエレポートを毎週2レポート発行する。会社メンバーは長年に渡る半導体の開発・設計を経験に持ち、マーケット活動なども豊富。チップの解説から設計コンサルタントまでを行う。

 百聞は一見にしかずをモットーに年間300製品を分解、データに基づいた市場理解を推し進めている。


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