図3は、MT6580のチップの配線層を剥離し内部を観察した様子である。RFトランシーバー(2G、3G、Wi-Fi、BluetoothおよびGNSS)、各種メディア機能、汎用CPU、通信用プロセッサなど、通常は3チップで構成されるものが、たった1チップに収まっている。
これは脅威的な技術である。特性の異なる通信や、性質の異なる信号処理を1チップに収めることは、異物混在としてチップ屋にとっては最も難解な仕事の1つであるからだ。
こうした“超ハイブリッドチップ化”によって、大幅なコスト削減を可能にし、その結果、54米ドルという低価格のスマートフォンが誕生したわけだ。ちなみにMT6580のチップ面積は、ほぼ5mm角である。極めて小さなサイズに上記の機能を盛り込んでいる。通常3チップ必要だったものが1チップで済むことは、基板設計も容易にし、フットプリントの大幅な削減にも寄与している。
MT6350でも同様に、電源ICとオーディオICという、通常2チップで構成されるものが、1つに集約されている。
通常は5つのチップから成るチップセットが、たった2チップで構成されていることになる。実に6割も部品削減が行われているのだ。
図4は、MT6580のパッケージ内部と、別製品で使われている通信チップ「MT6627」(Wi-Fi/Bluetooth/GNSS/FMに対応)の内部を比較したものである。機能チップは別々だが、アンテナスイッチのチップは同じものが使われている。
数年前までのMediaTekは、アンテナスイッチのようなチップを扱っていなかった。しかし、さまざまな通信が使われるようになってから、それらの通信機能を自らのチップ内に搭載するようになった。
以前は別のメーカーの製品を用いて実現していた機能を、現在は自社のチップに搭載している。これは、従来メーカーが弾き出されたことを意味する。しかも、同じアンテナスイッチをMT6580とMT6627といった異なるチップに組み込み、それぞれに同じ特性を提供できるとともに、部品と共通化することでコストダウンにも寄与している。
こうした工夫の積み重ねが、54米ドルのスマートフォンを生み出し、支えている。果たしてこの価格、そして、このスマートフォンの内部構造を今の日本メーカーが実現できるだろうか――。一考する必要があるだろう。なぜなら、ここで紹介した設計上の工夫は、IoT(モノのインターネット)のエッジ側端末に搭載するチップの在り方にも十分、通じるからだ。
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