東京大学大学院工学系研究科の児玉高志特任准教授らによる共同研究グループは、内包したフラーレンによって、単層カーボンナノチューブの熱伝導率低下と熱起電力の上昇が同時に起こることを発見した。
東京大学大学院工学系研究科の児玉高志特任准教授とスタンフォード大学機械工学専攻のKenneth E.Goodson教授、東京大学工学系研究科の大西正人特任研究員、志賀拓磨助教、嶋田行志助教、塩見淳一郎准教授、名古屋大学理学研究科の篠原久典教授らの共同研究グループは2017年8月、内包したフラーレンによって単層カーボンナノチューブの熱伝導率低下と熱起電力の上昇が同時に起こることを発見したと発表した。
カーボンナノチューブは、内部に形成されたナノスケールの空洞に機能性物質を内包させることで、固有の物性を制御することができる。ところが、熱物性についてはこれまで、ナノスケールの試料を計測することが極めて難しく、十分な解明はなされていなかった。
そこで、当時スタンフォード大学でリサーチアソシエイトを務めていた児玉氏と、Goodson教授らのスタンフォード大学研究チームは、熱伝導率計測デバイスを微細に加工するための技術を開発した。熱伝導率計測デバイスは、犠牲材料が縦に埋め込まれた基板を利用したものである。この技術を用いることで、実験試料を組み込んだサスペンション構造を実現することが可能となった。
嶋田氏や篠原氏らの研究チームが合成した、3種類の異なるフラーレンが詰まった単層カーボンナノチューブのバンドル(束)に対して、今回開発した熱伝導率計測デバイスを活用し、熱伝導率や熱起電力について評価した。フラーレンが内包されていない単層カーボンナノチューブとの比較では、フラーレンを内包した試料は、温室環境で熱伝導率が約50%低くなった。また、熱起電力は約40%大きくなることを確認した。熱伝導率の温度依存性を計測したところ、内包したフラーレンの大きさに依存して、熱伝導率のピーク値を示す温度が低温領域にシフトすることも分かった。
大西氏ら東京大学の研究チームは、実験結果を検証するため、フラーレン内包による熱伝導率について、分子シミュレーションを行った。この結果、密に内包させたフラーレンとの相互作用により、単層カーボンナノチューブに生じる周期的なひずみが、熱伝導率の低下や温度依存性の変化を生み出していることが分かった。さらに、熱起電力の上昇についても、単層カーボンナノチューブのひずみによるゼーベック係数の変化によって、そのメカニズムを説明できることが分かった。
今回の研究成果は、化学的性質やサイズが異なる材料を内包させることで、カーボンナノチューブの熱伝導性を大きく変化させられる可能性を示した。これによって熱電変換素子の性能向上などが期待できるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.