物質・材料研究機構(NIMS)らの研究グループは、分子を量子ドットとして用いた縦型共鳴トンネルトランジスターを作製し、その動作を実証することに成功した。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点量子デバイス工学グループの早川竜馬主任研究員と若山裕グループリーダーおよび、統合型材料開発・情報基盤部門情報統合型物質・材料研究拠点の知京豊裕副拠点長らによる研究グループは2017年8月1日、分子を量子ドットとしてシリコンデバイスに集積した縦型共鳴トンネルトランジスタを作製し、その動作を実証することに成功したと発表した。
単一分子を電子回路に用いる分子デバイスは、ポストシリコンデバイスとして40年以上も前に提唱された。ところが、いまだに分子デバイスを集積する技術は確立されておらず、実用化に至っていないという。
NIMSの研究グループはこれまで、絶縁体の間に分子を壊すことなく集積できる技術を確立し、分子を量子ドットとして、絶縁体間に共鳴トンネル電流が流れることを確認している。さらに、分子のエネルギー準位が分子設計や外場によって制御できる利点を生かして、共鳴トンネル電流の多値制御が可能なことも、試作した2端子構造のデバイスで実証してきた。
今回はこれまでの研究成果をさらに発展させた。分子を内包したトンネル2重接合をチャネル層に用いた縦型共鳴トンネルトランジスタを新たに提案、その動作を実証した。C60を用いた分子は、それぞれ分散した状態で絶縁膜の酸化アルミニウム(Al2O3)とシリコン酸化膜(SiO2)の間に埋め込んだ。この構造にすることで、分子は絶縁層で保護され、既存のリソグラフィー技術を適用することが可能となった。
トンネル2重接合は、リソグラフィー技術で線幅50nmに加工した。これによって、側面からゲート電圧を効率よく印加することができるという。その後、ゲート絶縁膜とゲート電極を形成して、縦型トランジスタを作製した。
今回開発した縦型共鳴トンネルトランジスタは、素子の高集積化と電子の量子トンネル効果を利用したドレイン電流制御が可能となる。共鳴トンネル電流を誘起できれば、分子設計によって多値論理回路を形成することも可能だという。
研究グループは、作製したトランジスターについて、20Kの温度環境におけるドレイン電流−ドレイン電圧特性を測定した。この結果から、ゲート電圧を印加するとドレイン電流が変調され、分子トランジスタとして機能していることが分かった。ドレイン電流のオン/オフ比は104となり、これまで報告されている単分子トランジスタなどに比べて、1桁以上も高い値となった。
特に、ドレイン電流−ドレイン電圧特性において、シリコン基板の電導性(p型、n型)を変えると、C60分子の占有軌道と非占有軌道に起因する階段状のステップが観測された。
p型シリコン基板を用いた試料は、負のドレイン電圧領域でHOMO、HOMO-1、HOMO-2、HOMO-3に起因するステップが観測された。n型シリコン基板を用いた試料は、正のドレイン電圧領域においてLUMO、LUMO+1、LUMO+2に帰属されるステップを観測した。
このことは、シリコン基板から分子へ、正孔あるいは電子が共鳴トンネリングによって輸送されていることを示している。HOMO-LUMO間のエネルギーギャップは1.6eVと見積もられ、単一C60分子のものと極めて近いという。
研究グループは、分子のエネルギー準位に対応するステップ電位位置とゲート電圧との関係についても詳細に検討した。この結果、シリコン基板内に形成される空乏層によって、ドレイン電流が効率よく変調されていることが分かった。
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