日本は「移動するIoT」をどう考えるべきか? 〜 産業用ドローンへの取り組み : JASA発IoT通信(3) (4/4 ページ)
産業用ドローンの技術的課題を挙げるとキリがない。
例えば、自動車を例に考えてみる。過疎地の道路やトンネルでは電波がない。その状況下ではドライバーの判断で走行が継続される。地図はナビゲーションの画面に表示され、自車位置もそれなりに把握できている。さてドローンはどうだろう? 無線が途切れてもコントロールできるドライバーは存在しない。ドローン自身が自律して動く必要がある。ITに精通している読者であれば、やるべきことが山積していることは想像できるだろう。
日本の組込みソフトウェア開発者は、かつて大手家電メーカーやそのパートナーとして秘密保持契約の下、縁の下の力持ち的な存在として活躍してきたし、今でも活躍している。自動車を例にとってみても、ECU(Engine Control UnitないしElectric Control Unit)はエンジン、トランスミッションに限らず、エアコン、ブレーキ、カーエレクトロニクスなど、多岐にわたり制御用プログラミングが搭載されている。その中であらゆる状況を想定しながら、モノづくりをしている。
ドローンにおけるECUはFCと呼ばれているが、ESC(Electric Speed Controller)でのモーター制御、センサー制御を駆使して飛ぶ。ドローンも自動車と同様で、自動車産業を下支えしている組込みエンジニアが力を結集してけん引すべきであり、その上でサービスが成り立ち、ドローン産業が成り立つのだ。
図9:産業用ドローンのあるべき姿 提供:ドローンワークス株式会社(クリックで拡大)
安価なホビー用ドローンが海外から多く輸入されている状況で、正面から戦っても国内産業界はホビー用では勝てない。日本の産業界が勝てるのは日本の強みを生かした高信頼性プラットフォームと考える。ドローンを安心、安全に運航管理するためには、高性能なセンサー、モーターを使用、制御、冗長化したシステムが必要である。
冗長化処理を実現するためにはやはり、わが国の産業を自動車と共に下支えしてきた組込みソフトウェアの設計技術である。組込みソフトウェアを1社で作る時代は終わった。それでは世界に勝てない。非競争領域をオープンソースで開発し、今こそ日本の力を結集し日本の産業を作る時だ。
金沢エンジニアリングシステムズ入社以来、ECU、ATM(現金自動預け払い機)、デジタル家電など多岐に渡る組込みソフトウェアの開発に従事。「日本の組込みソフトウェア産業を元気にしたい」との想いから、北陸で組込みエンジニアフォーラムを立ち上げ、組込みシステム技術協会(JASA)で活動するようになる。北陸の金沢に活動拠点を置きながら、JASAでIoT技術高度化委員会 ドローンワーキンググループ長として、組込みエンジニアからみた「移動するIoT」のあるべき姿を具現化している。
金沢エンジニアリングシステムズ 製品企画部 兼 開発部 部長。組込みシステム技術協会 技術本部 IoT技術高度化委員会 副委員長。
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IoT時代で勝つには“組み込み視点”の議論が必要だ
EE Times Japanでは、組込みシステム技術協会(JASA)とスキルマネージメント協会(SMA)が推進する「IoT技術高度化委員会」とコラボレーションし、連載「JASA発IoT通信」をお届けしていく。連載第1回目は、同委員会で主査を務める竹田彰彦氏のインタビューを紹介する。
目指すはロボット技術立国 ―― 移動体IoTと産業用ドローンへの取り組み
移動体のIoT(モノのインターネット)では無線通信を前提とするため、通信遮断対策や帯域確保などさまざまな課題が生じてきた。ここにエッジコンピューティングを導入し、組込みソフトと無線通信の協調による移動体IoTを実現させる。当初はコネクテッドカーからスタートした移動体IoTであるが、昨今は同様の技術がドローンに展開され始めた。ホビー用途のドローンでも、組込みソフトが機体の姿勢制御などを操る。産業利用のドローンには、さらなる安全性と信頼性が求められる。組込みソフトと無線通信の協調が果たす役割は大きい。
“CPU大国への道”を突き進む中国、ドローン分解で見えた懸念
中国DJIのドローン「Phantom 4」には、28個ものCPUが搭載されている。CPUの開発で先行するのは依然として米国だが、それを最も明確に追っているのは中国だ。だが分解を進めるにつれ、「搭載するCPUの数を増やす」方法が、機器の進化として、果たして正しい方向なのだろうかという疑問が頭をよぎる。
見通し外の位置にいるドローンの制御が可能に
情報通信研究機構(NICT)は「テクノフロンティア2017」で、障害物を迂回してドローンに電波を届けるマルチホップ無線通信システム「タフワイヤレス」と、ドローン間位置情報共有システム「ドローンマッパー」を発表した。前者は、発信地から見て見通し外の場所にいるドローンを制御するためのシステム。後者は、ドローン同士の衝突を防止するためのシステムだ。
GPS不要の自律飛行システム搭載ドローン「PF1」
自律制御システム研究所(ACSL)は「テクノフロンティア2017」で、国内で唯一完全に自社開発したというオートパイロットシステムを搭載したドローン「PF1」を公開した。PF1は、独自の位置情報取得システムなど、さまざまな技術を実装。これにより、産業用途に必要な安全で安定した自律飛行を実現している。
ドローンの安全利用のために、今求められること
危ないからドローンを使わないということでは技術が成長しない、便利な道具を使いこなせなくなってしまう――。東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻で教授を務める鈴木真二氏は、ドローンの安全利用のために、今求められていることについて講演した。
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