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誰も知らない「生産性向上」の正体 〜“人間抜き”でも経済は成長?世界を「数字」で回してみよう(44) 働き方改革(3)(1/10 ページ)

「働き方改革」に関連する言葉で、最もよく聞かれる、もしくは最も声高に叫ばれているものが「生産性の向上」ではないでしょうか。他国と比較し、「生産性」の低さを嘆かれる日本――。ですが、本当のところ、「生産性」とは一体何なのでしょうか。

» 2017年10月23日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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「一億総活躍社会の実現に向けた最大のチャレンジ」として政府が進めようとしている「働き方改革」。しかし、第一線で働く現役世代にとっては、違和感や矛盾、意見が山ほどあるテーマではないでしょうか。今回は、なかなか本音では語りにくいこのテーマを、いつものごとく、計算とシミュレーションを使い倒して検証します。⇒連載バックナンバーはこちらから


今なお、継続される「生産性低下活動」

 大学生のころ、当時としては相当高価なワープロ専用機(×パソコン)を、バイト代で購入してから、ほぼ毎日、私はプライベートで文章を書き続けています(著者のブログ)。現在においても、週末ライターとして、月に2本のコラムを作成していますし、平日研究員として、毎日、特許明細書、仕様書、報告書、プログラムを書きまくっています。

 内容や品質を無視するのであれば、私の執筆スピードはかなり速い方だと思います。加えて、私は、せっかちな性格でもありますので、同じ文章に何日も割くのが嫌いです。

 新人の時、私は、何度も月報を書き直しさせられましたが、苦痛以外の何ものでもありませんでした。ひどい時には、報告書を30回も再提出させられたことがありますし、人生最初の特許明細書に至っては7カ月にわたり書き直しを命じ続けられました。

 提出する度に指示内容が変化し、矛盾し、同じループを繰り返し、最終提出時には、私が最初に提出したものとほとんど同じ内容になっていることも度々ありました。これが、3回連続で続いた時には

―― 私は、上司に殺意を覚えました(本当)。

 『「てにおは」の修正ぐらい、お前の気に入ったように書き直して、そのまま報告書を上に上げればいいだろう』、と思っていました。私にとって、「報告書は報告するもの」でしかなく、報告書の内容にプライドなんぞ全く持っていなかったからです

 私は、そういう『新人教育』なるものが、時間の浪費にすぎないと信じていましたし、『完璧な1つの特許明細書を書き直す時間で、3つの明細書を書いて数をこなした方が、勉強になる上に、生産性も上がる』―― と、思っていましたし、今でもそう思っています。

 いずれにしても、私は、こういう生産性低下に加担する側になるのは嫌だったので、私が上長になった時に、私の部下に対しては、徹底的なマニュアル化を押しつけました。こんなのや、こんなのを作って、『このマニュアル通りに書けば、無条件で報告書を通す』と宣言し、実際にその通りにしてきました。

 さらに、部下に対して、「3回以上の文章の修正指導はしない。4回目の提出は見ないで、無条件で承認印を押す」と宣言し、部下に覚悟を迫りました(私が上から「教育不行届」で叱責(しっせき)されることは、折り込み済みです)。

 その一方で、「あの頃は辛かったが、あれはあれで意味のあることだった」などと回想、または“歴史改ざん”を完了した、私と同世代の人間が今、管理職についています。

 そして、今なお、上記のような、

――生産性低下活動は、絶賛継続中です。

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