しかし、もしAIが一定の範囲で、生産性の増加率を定量的に維持することができるのであれば(もちろん、現時点のAIでは難しいですが)、いくばくかの可能性はあります。
ということは……
―― あれ? 人間は、もういらないじゃん
もし、私の導いた式が妥当であるなら、たとえ日本の人口が0人になったとしても、AIと機械が勝手に動き続け、生産を続けて、成長率を維持することも可能です(人口が0人になれば、人口の変化率はゼロになるので、逆に、成長率の足枷も消えます)
―― 私、どこで何を間違えたんだろう?
ロジックに混乱をきたしてきた私は、ベッドで眠りかけていた次女(中3)をたたき起こして、部屋から引っ張り出し、無理やり私の書斎に連れ込んで、議論を吹っ掛けました。
一通り、私の思考実験のプロセスを聞いていた次女は、おもむろにしゃべり始めました。
次女:「つまり、『パパの定式化によれば、生産性を向上させ続けることのできるAIがあれば、人間なしの経済成長が実現できる』ということだね」
江端:「そう。人間は、経済成長に必要な要素にならない。人間なしでも経済は成長できる」
次女:「『引きこもり』が日常となる世界の登場だ。いいなあぁ。あ、それでも、そのAIをメンテナンスする人間は、最低限必要な訳でしょう?」
江端:「その理屈は思い付いたが、それなら、AIの『お守り』ができる、少数のエンジニアを育成すれば足り、それ以外の人間は不要になる」
次女:「あれ? でもAIには『工夫』をする能力はないんでしょう。『工夫』を創造できるのは人間だけ、ということでいいんだよね」
江端:「その点については断言する。AIは絶対に自力で『工夫』を生み出すことはできない」
次女:「だったら、人口は必要じゃんか。要するに、『工夫』というか『イノベーション』を作り出すことのできる装置である『人間』がいないと、『イノベーション』っていうものは、出てこないんでしょう」
江端:「それは……人間は、イノベーションを作り出す装置としてのみ必要で、そして、そのイノベーションをAIに組み込むカートリッジとしてのみが必要だ、ということか?」
次女:「そう。イノベーションを起こすためには、アイデアをインスパイアする高い知能を持つエンジニアの一定の母集団(人口)が必要になるんでしょう? そして、そのイノベーションの効果を検証するためには、もっと多くの母集団(人口)が必要になるよね。ならば、『人口』は、成長率に必須の構成要件」
江端:「……」
次女:「パパの話では、『イノベーション』は、いつ、どういうタイミングで、生まれてくるか、分からないんでしょう? だとすれば、人間は、何世代にもわたって、永遠に人間を自己生産し続けることが必要になる、ということだよね」
江端:「お前、よく、そんな恐ろしいパラダイムを思い付くことができるなぁ」
次女が私に教示した内容は、こういうことです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.