14nm/16nmまでおおよそ10年、常にトップを切って新プロセスの製品を世に送り出してきたのはIntelであった。PC市場を凌駕(りょうが)するほどの勢いでスマートフォンが成長し始めたのは2010年以降だったが、モバイルが、真にプロセッサでPCよりも先行して最先端プロセスを活用したのは、2017年であった。
その点で2017年は冒頭で述べた「忘れえぬ1年」になったといえるだろう。同時に25年間半導体業界の売り上げランキング1位であったIntelがSamsungに抜かれたのも2017年である。業界全体が大きな転換期にあることは間違いない。BroadcomによるQualcomm買収の提案も、来たる変化の前にやっておかねばならない事情があるからと捉えてみる必要があるだろう。
10年前、Texas Instruments(TI)は激変の前に、ファブライト(製造を委託し、自分でできるものと頼むものを区分け)宣言し、デジタルプロセッサの開発をほとんど止めた。その後スマートフォン市場での弾の打ち合いが始まる前に、National Semicondcutorを買収し終え、“アナログのTI”にしっかり変化している。多くのメーカーは変化が始まってから、変化をせざるを得なかったので、後手に回ってしまい、多くの痛手を負っている。特に日本メーカーのダメージは深い。
2017年、M&Aに始まり、M&Aが話題となった半導体業界だが、既に見えない次の激変が迫っているからこその大型買収と捉えるべきだろう。次なる激変の波は中国からもインドからもやってくる……。AIにしても、自動車にしても、それらを取り巻く環境が大きく変わるというシグナルが、常に出ている。
表2のように、最先端プロセス製品は、PCではなく、モバイルがけん引するようになった。2018年にはさらに微細化された7nmが製品化され、世に出てくることになるだろう。既に試作チップは数多く飛び回っている。
では、2017年における従来のPC系プロセッサは、どのような状況だったのだろうか。
図2はPC系プロセッサの2017年に発表された製品の一例である。インテルやAMDは14nmプロセスにとどまり、いかに面積を増やすかに主力を置いたチップ構成を提案して、実用化している。Intelは「Core i9」をリリースし、18コアの製品までをラインアップ化した。「Core i7」も第8世代に移行し、4コアから6コアへとCPU数を増やしている。
10nmに移行すれば、面積縮小に至ってしまう。かといって、14nmにとどまるだけでは新たな価値を生み出せない……。そこでコア数を増やし、シリコンの面積を拡大させ(実際にプロセスは成熟し欠陥密度も改善され、歩留まりは上がる)、生産工場の稼働率を上げる方向に持っていっているようだ。
モバイル系プロセッサは前述のように、10nmさらには7nmと突き進み、機能が増えて、CPU+GPU+アクセラレータの構造が主流になっている。さらにアクセラレータを拡大することに加え、5G(第5世代移動通信)モデムの面積に7nmプロセスの効果を使うというシナリオが見えてくる。
しかし、PC系プロセッサでは、うかつに10nmプロセスに踏み込めない。10nmプロセスを適用すると面積は半減してしまい、結果として生産ラインを埋められなくなってしまう可能性も出てくるからだ。
2017年は明暗がはっきりしたわけではないが、PCとモバイルという2つのセグメントに、異なる方向性が見えた元年ともいえる1年であった。
2018年も変化は止まることなく続くだろう。弊社は、話題の製品を片っ端から分解し、チップを開封した上での判断や解析をますます強化していく。2018年もご期待ください。よろしくお願いいたします。
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ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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