東京大学大学院工学研究科の松尾豊特任教授らは、耐久性をこれまでの10倍に向上させたペロブスカイト太陽電池の作製に成功した。
東京大学大学院工学研究科の松尾豊特任教授と田日特任助教、丸山茂夫教授らは2018年3月、中国・東北師範大学の上野裕副教授らと共同で、耐久性をこれまでの10倍に向上させたペロブスカイト太陽電池の作製に成功したと発表した。
ペロブスカイト太陽電池は、リチウム塩がドープされた有機半導体をホール輸送層に用いることで、エネルギー変換効率を20%近くまで高めている。しかし、実用化するには耐久性が課題となっていた。リチウム塩には吸湿性があり、有機半導体から電子を引き抜く時には酸素が必要となる。ところが、発電層に用いる有機金属ペロブスカイトは、水や酸素の影響で極めて不安定となる特性がある。
研究グループは今回、従来のリチウム塩ではなく、日本のベンチャー企業が開発した「リチウムイオン内包フラーレン」(Li+@C60)を用いた。リチウムイオンをC60フラーレンで包んだ新たなリチウム塩は、リチウムイオンがC60内にあるため吸湿性が低く、高い電子親和力を持つ。しかも、酸素を使わず有機半導体の「spiro-MeOTAD」から電子を引き抜くことができるという。
Li+@C60がドープされたspiro-MeOTADは、ラジカルカチオンとなって、ホール輸送特性が向上する。同時に、Li+@C60は、電子移動で電子を受け取り、中性のリチウム内包フラーレン(Li@C60)となる。Li+@C60の疎水性とLi@C60の抗酸化作用を併せ持つペロブスカイト太陽電池は、水や酸素に対してより安定となり、太陽電池の寿命が向上したという。
研究グループは、耐久性の検証も行った。従来のペロブスカイト太陽電池は、未封止だと有機半導体層が吸湿をして、50時間で素子が動作しなくなった。これに対し、開発したペロブスカイト太陽電池は、50時間くらいかけて変換効率がゆっくりと上昇し、最高効率を達成した後に、約500時間かけて効率が低下していくことが分かった。
その理由として研究グループは、Li@C60により酸素が遮断され、有機半導体中のホール生成が遅くなるとともに、水や酸素を遮断することによって発電層の分解が遅くなったため、とみている。
開発したペロブスカイト太陽電池のエネルギー変換効率は、最高16.8%となった。封止した素子に疑似太陽光を連続照射したところ、1000時間経過した後でも効率の低下は10%以内に収まることが分かった。
Li+@C60は、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を向上するだけでなく、有機エレクトロニクス材料の高機能化と安定性向上にも活用できる、と研究グループはみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.