「ラズパイ」最初の10年、今後の10年:産業用途が教育用途を超えた(3/3 ページ)
2008年から2018年の“最初の10年”で、Raspberry Piは市場での確固たる地位を築き、産業用途という思いもよらなかったマーケットでの道を開いた。では、“次の10年”はどうなるとUpton氏は考えているのだろうか。
Upton氏は、IoTのトレンドによるRaspberry Piへのニーズの変化を踏まえながら「Raspberry Piの今後については、中期的な視点では、ZigBeeに代表されるIEEE 802.15.4をサポートする必要があると考えている。主要な無線通信規格としてWi-Fi、Bluetooth、そしてIEEE 802.15.4がある。前者2つについては既にサポートしているので、あとはIEEE 802.15.4だろう」と語る。
「10年から15年という長期的な視点で言うと、Raspberry Piをさらに安価に提供していかなければならないだろう。IoTの用途によっては数十米セントなど1米ドルを切ることも必要になるかもしれない。ただ、現時点では、われわれにとっても販売代理店にとっても幸運なことに、35米ドルの現製品で十分に対応できるIoTのアプリケーションが数多くある」(Upton氏)
Raspberry Piは、もともとの目的である教育用途としても、大きく貢献している。Upton氏は、「われわれの使命は、ケンブリッジ大学でコンピュータプログラミングを学びたいという受験生を増やすことだった」と述べる。実際、前出の図版でも示した通り、出願数は、2008年には250人以下まで減少している。だが、減り続けた出願数が2017年には1100人にまで増加したのだ(入学できるのは、そのうち約90人だという)。
「増加した受験生が実際にRaspberry Piを使ってきたことを示す公式なデータは持ち合わせていない。ただ、ケンブリッジ大学の関係者に取材したところ、面白い傾向が分かった。面接官が受験生に、コンピュータプログラミングを始めるきっかけを尋ねたところ、多くの受験生の答えがRaspberry Piかロボットだったという」(Upton氏)。同氏は、「出願数の減少という問題は、英国の他の大学や、日本を含め他国でもみられる。ケンブリッジ大学以外でも、出願数の回復にRaspberry Piが貢献できればと思っている」と続けた。
- 教育・ホビーから産業用途へ、ラズパイ5年目の進化
“ラズパイ”の名で親しまれている超小型コンピュータ「Raspberry Pi」。2012年の発売当初は、“子どもたちにプログラミングを学んでもらうための楽しいおもちゃ”という位置付けだったが、今では販売台数の約半数が産業用途で使われているという。ラズパイの開発者であるEben Upton(エベン・アプトン)氏に話を聞いた。
- ラズパイからの量産移行を助ける産業用ボード Digi
Digi International(ディジ インターナショナル)は、展示会「ワイヤレスジャパン 2017」で2017年3月から量産出荷を開始した超小型組み込みネットワークモジュール「ConnectCore 6UL」と、同モジュールを搭載した産業用ボードコンピュータ製品の展示を実施している。
- Raspberry Pi搭載CPUの変遷にみた「上手なチップ開発術」
今回は、シングル・ボード・コンピュータの代表格である「Raspberry Pi」に搭載される歴代のCPUチップを詳しく観察していこう。現在、第3世代品が登場しているRaspberry Piは、世代を追うごとに、CPUの動作周波数が上がり、性能がアップしてきた。しかし、チップを観察すると、世代をまたがって同じシリコンが使われていた――。
- 64ビット4コアCPUが5ドル、中国メーカーの価格破壊
「PINE64」は、「ラズパイ3」同様、64ビットのシングルボード・コンピュータである。だが、価格はラズパイ3のおよそ半分。それにもかかわらず、搭載しているチップの性能は、ラズパイ3を上回るものもある。PINE64の分解から見えてきたのは、中国チップメーカーによるCPUの“価格破壊”であった。
- “お蔵入りチップ”が掘り出し物に? Intel FPGAが示す過去の半導体の価値
Intel FPGAとして発表された「Cyclone 10 LP」。これには、約10年前のプロセスとシリコンが使われている。これは、何を意味しているのだろうか。
- 嫌われ者の“EOL品供給”を使命とするRochester
誰もが嫌う“EOL品の供給”を使命にしている企業がある。Rochester Electronics(ロチェスター・エレクトロニクス)だ。70社以上の半導体メーカーから承認を得て、EOL品、またはEOL品を製造する権利を買い取り、メーカーや商社に成り代わってEOL品をユーザーに提供している。なぜ、EOL品の供給でビジネスが成り立つのか。どういったビジネス戦略を描いているのか。Rochester Electronicsの日本オフィス代表を務める藤川博之氏にインタビューした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.