産業技術総合研究所(産総研)らによる研究グループは、カリウムイオン電池用の4V級酸化物正極材料を開発した。
産業技術総合研究所(産総研)電池技術研究部門次世代蓄電池研究グループの鹿野昌弘研究グループ長とマセセ タイタス研究員らは2018年9月、カリウムイオン電池用の4V級酸化物正極材料を開発したと発表した。
今回の研究は新規材料開発に取り組む鹿野氏らと、新規化合物の構造解析を行ってきたNanjing University of Posts and TelecommunicationsのHuang,Zhen-Dong准教授、放射光施設を用いてリチウムイオン電池用正極材料の充放電機構を研究している立命館大学生命科学部応用化学科の折笠有基准教授らの研究グループらが共同で行った。
研究グループはまず、これまで発見したカリウム含有複合酸化物の結晶構造を解析し、カリウムイオンの拡散障壁のエネルギーを計算した。さらに拡散障壁が低い化合物群について、論理計算により作動電位を見積もって、正極材料として有望な酸化物の選定を行った。
選定した酸化物の作動電位を実測し、作動電位が約4Vという層状型構造の化合物「K2M2TeO6(K2/3M2/3Te1/3O2)」を発見した。この化合物群は、比容量が理論値で130〜140mAhg-1、平均作動電位は3.6〜4.3V(vs.K+/K)、正極材料ベースでのエネルギー密度は470〜600Whkg-1である。このエネルギー密度は従来の酸化物材料に比べて極めて大きく、現行のリチウムイオン電池用正極材料のエネルギー密度(600Whkg-1程度)に匹敵する数値だという。
金属元素Mをニッケル(Ni)に置き換えたK2/3Ni2/3Te1/3O2は、比容量の理論値が130mAhg-1に対し、実測値は70mAhg-1となった。平均作動電位は3.6V(vs.K+/K)が可能である。Niの一部をコバルト(Co)やマグネシウム(Mg)などに置き換えると、作動電位を4.3V(vs.K+/K)まで高められることが分かった。
K2/3M2/3Te1/3O2の作動電圧を実測した値が、従来の層状型酸化物正極材料より高い理由も調べた。論理計算によると、結晶構造中にあるTeO6の働きによることが分かった。カリウムがハニカム型の層状構造を構成しており、カリウムイオンが二次元的に高速拡散する経路となるためで、高出力の正極材料として期待できるという。
さらに研究グループは、K2/3M2/3Te1/3O2型の複合酸化物が、高いカリウムイオン電導性を持ち、固体電解質として利用可能であることも明らかにした。例えば、マグネシウムを用いたK2/3Mg2/3Te1/3O2のイオン電導性は、300℃で38mScm-1と極めて高い値を示した。室温に近い作動温度の材料を開発できれば、全固体カリウムイオン電池を実現できる可能性があるという。
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