以上のように、マルチ・パターニング技術によって、10〜7nmのパターンが実現していて、5〜3nmのパターン形成も可能となっている。すると、波長13.5nmのEUV(極端紫外線)露光装置を使う必要があるのかという疑問が湧く。何しろ、オランダASML社が市場を独占している露光装置において、ArF液浸のフルスペック装置が100億円であるのに対して、EUVの量産機は300億円もするからだ。
しかも、EUVを使ったところで、10nm以下のパターンは形成できない。つまり、300億円もするEUV装置は、最先端の微細加工装置とはいえないのである。
では、高額なEUV装置を使わずに、マルチ・パターニングで微細化を続ければ良いではないかというと、それにも問題がある。まず、マルチ・パターニングでは、ライン&スペースのような、繰り返しパターンしか形成できない。
また、その繰り返しパターンの露光の際に、ArF液浸の193nmの光が隣り合うパターンと干渉するため、希望通りのパターンが形成できない問題が発生している(図5)。これを解決するためには、形成したいパターンから逆算して、マスクパターンをつくることが必要になる。この技術を、光近接効果補正(Optical Proximity Correction:OPC)と呼んでいる。
光の干渉の問題は、微細化とともに深刻になっている。それ故、10〜7nm用のマスクパターンは、OPCをかけまくっており、一見すると何のパターンか分からないほど複雑になっているという。その結果、設計コストやマスクコストが高騰することになる。
さらに、シングル露光による加工工程がたかだか5ステップであるのに対して、ダブル・パターニングでは約20ステップになり、クアドロプル・パターニングでは約30ステップが必要になる。
従って、1台300億円するEUV装置が高いかどうかは、設計コスト、マスクコスト、全ての装置コスト、全てのプロセスコスト、これらを総合してコスト比較をする必要がある。
そこで、繰り返しラインパターンを形成する場合、上記全てのコストをカウントし、ArF液浸シングル露光のコストを1として、ArF液浸+ダブル・パターニング、ArF液浸+クアドロプル・パターニング、光源出力が125Wでスループット100枚/時間のときのEUVのシングル露光、光源出力が250Wでスループット200枚/時間のときのEUVのシングル露光のコストを比較した(図6)。
解像限界38nmの液浸シングル露光に対して、20nmが形成できるダブル・パターニングでは、相対コストが約2倍になる。また、10〜7nmが形成できるクアドロプル・パターニングでは、相対コストが4倍弱になる。
一方、光源出力125Wでスループット100枚/時間のときのEUVのシングル露光では、13.5nmが形成でき、相対コストは液浸シングル露光の2倍強である。さらに、光源出力が250Wでスループット200枚/時間のときのEUVのシングル露光では、相対コストは液浸シングル露光とほぼ同程度の1倍強になる。
現在、EUVでは125Wの光源出力が安定的に出るようになっている。また、光源出力250Wが使えるようになるのも時間の問題といわれている。光源出力250WのEUVが使えるようになれば、その相対コストはArF液浸のシングル露光とほぼ同等で、13.5nmが解像できることになる。10〜7nmのパターンを形成する場合は、EUV露光を使ったダブル・パターニングを行うことになる。その相対コストは、図6から予想すると、ArF液浸+クアドロプル・パターニングの半分強になると思われる。
要するに、EUVは、最先端の微細加工装置ではなく、“コスト削減ツール”として有効であると言えるだろう。従って、EUVは、最先端の半導体メーカーに少しずつ普及していくと思われる。
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