前述した通り、筆者は、メモリが供給過剰になった原因が、Intelの10nmプロセスが立ち上がらないことにあると考えている。以下では、Intelの微細化が遅れている状況を示し、その結果がメモリの供給過剰を引き起す因果関係を論じたい。
Intelは、2年周期で微細化を進める「チック・タック」モデルに基づいて、プロセッサをリリースしてきた(図5)。
「チック・タック」モデルとは、例えば、2012年に前世代の論理設計やマスクパターンを変更せずに32nmから22nmに微細化した世代を「チック」と呼び、その翌年の2013年に微細性は22nmのままで設計を更新し、その世代を「タック」と呼ぶ、というサイクルである。
ところが、2015年の14nmから、2016年の10nmに微細化する際に、このモデルが破綻した。10nmプロセスが立ち上がらなかったからだ。
そのため、「14nm+」と称するプロセスで、2世代のプロセッサをつくったが、その後も今に至るまで10nmプロセスが立ち上がらず、現在は「14nm++」と称するプロセスでさらに2世代のプロセッサを製造している。要するにIntelでは、14nmプロセスが6世代にわたって延命化が図られるという、異常事態が起きている(図6)。
Intelの発表によれば、10nmプロセスは、2018年中にも立ち上がらず、2019年下期辺りになりそうな気配である。
では、Intelの微細化の遅延は、どのようなことを引き起しているのだろうか?
もともとIntelでは、PC用プロセッサが微細化の先頭を走り、1世代遅れのプロセスでサーバ用プロセッサが製造されてきた。
ところが、2016年以降、Intelの微細化は10nmに進めず、14nmで止まってしまった。その結果、1世代遅れのはずのサーバ用プロセッサも14nmで製造することになってしまった。
さらに、Intelは、Appleの「iPhone」用ベースバンドプロセッサのビジネスを、2017年末にQualcommからもぎ取っている。AppleとQualcommが訴訟を行っていたということも、Intelのビジネスに有利に働いた。
ところが、このベースバンドプロセッサも、14nmプロセスに移行した可能性がある。すると、14nmプロセスに、PC用、サーバ用、ベースバンド用と全てのプロセッサが集中し、14nmの量産工場が過密状態となり、2018年にプロセッサの供給不足を引き起こした。それは、プロセッサの価格高騰により発覚した。
Intelのプロセッサが供給不足になることを予測して、電子機器メーカーが優先度の高い製品(例えばiPhoneなど)の製造を優先したことがプロセッサ不足をより加速させ、2018年9月には日本、中国、韓国、東南アジアなどで大幅な品薄となった模様である。
その事態に慌てたIntelは、2018年秋に、14nmチップセットの生産をTSMCへ生産委託したが、“焼け石に水”状態であるという。そして、プロセッサの供給不足が解消されるのは、2019年後半以降になるとの見解も出始めた。
とにかく、世界的に、Intelのプロセッサが足りない状態となった。プロセッサが足りないと、一体何が起きるのか?
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