理化学研究所(理研)らによる研究グループは、高温超電導線材を用いて超電導接合した超電導コイル(NMRコイル)を開発し、9.39テスラの磁場中で永久電流運転に成功した。
理化学研究所(理研)らによる研究グループは2018年11月、高温超電導線材を用いて超電導接合した超電導コイル(NMRコイル)を開発し、9.39テスラの磁場中で永久電流運転に成功したと発表した。
今回の研究は、理研放射光科学研究センターNMR研究開発部門超高磁場磁石開発チームの柳澤吉紀チームリーダーや住友電気工業パワーシステム研究開発センター次世代超電導開発室の永石竜起室長、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジーの斉藤一功技術総括部長、JEOL RESONANCEの蜂谷健一副主査、科学技術振興機構の前田秀明プログラムマネジャーらが共同で行った。
現行の核磁気共鳴(NMR)装置や核磁気共鳴画像(MRI)装置には、液体ヘリウム温度(−269℃)レベルで超電導となる金属系低温超電導線材が用いられている。これだと冷却のために高いコストが必要となっていた。これに対して、レアアース系やビスマス系の高温超電導線材は、液体窒素温度(−196℃)で超電導となる。このため、冷却などのコストが安価で取り扱いも容易なため、実用化に向けた研究が進められている。
永石氏と柳沢氏らは、レアアース系の高温超電導線材同士を接続する超電導接合技術(iGS接合)を2017年に開発し、これまで原理検証を行ってきた。共同研究グループは今回、レアアース系高温超電導線材1本で巻いた小型のNMR用内層コイルを作製した。コイルから引き出した薄いテープ形状の線材を、構造物の障害にならないよう引き回した。さらに、コイルから漏れる磁場が接合部の電気抵抗ゼロ特性に影響を及ぼさないよう、最適な接合部の位置を割り出した。その上で、線材と永久電流スイッチのそれぞれの両端部を熱処理し超電導接合した。このコイルを外層コイルの内側に設置した。
これらのコイルにそれぞれ外部電源から電流を流した。高温超電導線材を用いた内層コイルの磁場が4MHz、低温超電導線材の外層コイルが396MHzを発生し、合計400MHzの磁場を達成した。その後、永久電流スイッチを動作させ、外部電源を切り離したところ、永久電流運転を始めた。
共同研究グループは、2日間にわたり磁場の変動を計測した。この結果、1時間当たり10億分の1レベルという高い安定度を得ることができた。これは、コイルを冷やし続けると外部電源なしで10万年間も磁場が発生し続けることに相当するという。こうした安定磁場で、NMR信号の取得にも成功した。
開発したNMR装置での発生磁場はそれほど大きくないが、今回の技術を発展させていくことで、定量NMRなどに応用できる永久電流NMR装置の開発が可能とみている。さらに今後は、1300MHz(30.5テスラ)という超高磁場NMR装置の実現に向けて、超電導接合の実装技術を開発する計画である。
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