理化学研究所(理研)の研究チームは、パルス電流を用いて「超電導状態」の生成と消去に成功した。書き換え可能な超電導量子コンピュータ向け回路の実現につながる可能性が高い。
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター動的創発物性研究ユニットの大池広志特別研究員(研究当時)、賀川史敬ユニットリーダーらの研究チームは2018年10月、パルス電流を用いて「超電導状態」の生成と消去に成功したと発表した。超電導制御の新しい原理を実証したことで、書き換え可能な超電導量子コンピュータ向け回路の実現につながる可能性が高い。
これまで、超電導状態を示す新物質の探索には、対象物質の化学組成や圧力を変化させる「平衡熱力学」の原理が主に用いられてきた。しかし、この方法だと安定した状態になる物質が限られていたという。
研究チームは今回、鉄鋼の硬さが冷却方法によって異なることに着目し、急速冷却による電子集団の状態制御を行った。そこでまず、平衡熱力学の枠組みを超えた超電導生成法の実証に向けて、対象となる物質を選定した。この時、2つの基準を設けたという。
1つが、低温では電子が規則正しく配列した「競合秩序」と呼ばれる状態であるが、圧力や化学組成の変化によって競合秩序がなくなり、超電導状態を発現する物質であること。もう1つは、ある温度域で競合秩序が急激に形成されることである。この温度領域を急速冷却によって短時間に通過させれば、競合秩序が形成されず低温に到達する。この結果、低温で超電導状態が生成されるという。
次に、これらの基準を満たす物質の1つである「IrTe2」を用い、極低温環境で実験を行った。IrTe2の薄片試料にパルス電流を印加すると、試料の温度は2.4K(約−270.8℃)から400K(約126.8℃)まで、瞬時に上昇した。ところが、パルス電流が終了すると、試料の熱は秒速1000万Kを上回る速さで2.4Kに冷却されることが分かった。
また、パルス電流を印加する前は、試料の電気抵抗率値が有限であった。しかし、印加後はそれが「ゼロ」となり超電導状態になることが判明した。これらの実験結果から、従来とは異なる方法で超電導状態を生成できることを実証した。
続いて、今回の超電導生成法を用いて、IrTe2が持つ新たな機能性についても検証した。急速冷却で超電導状態を生成した後、急速冷却に用いたパルス電流より小さい電流(低い強度)で長い時間印加し、試料温度を50K(約−223.2℃)から280K(約6.8℃)の間に保つと、競合秩序が形成された。パルス電流の終了後は、2.4Kまで試料が冷却されたが、電気抵抗率は有限値となり、競合秩序の形成によって超電導状態が消去された。
これらの実験から、2種類のパルス電流で、超電導状態の生成と消去を繰り返し発現させることに成功した。しかも、パルス電流は、超電導状態を検出するための回路を用いて印加できるという。これらの成果により、「超電導−非超電導状態を不揮発的に書き換えるメモリ機能(超電導不揮発メモリ機能)」を実証した。
研究チームは今回の研究成果について、超電導不揮発メモリ機能の実現可能性を示すと同時に、「超電導探索の新たな切り口にもなる」とみている。
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