産業技術総合研究所(産総研)は、次亜塩素酸化合物(NaClO)を用いてカーボンナノチューブ(CNT)を含む産業廃水から、CNTを簡便に除去する方法を開発した。
産業技術総合研究所(産総研)ナノチューブ実用化研究センターCNT評価チームの張民芳主任研究員と岡崎俊也研究チーム長(兼)同研究センター副研究センター長らは2019年2月、次亜塩素酸化合物(NaClO)を用いてカーボンナノチューブ(CNT)を含む産業廃水から、CNTを簡便に除去する方法を開発したと発表した。
CNTは熱や電気、力学特性に優れ、化学的にも安定していることから、エレクトロニクスを始め、さまざまな分野でその応用が期待されている。ただ、長期的な観点でCNTなどナノ炭素材料が及ぼす環境や生体への影響などについては、明らかにされていない部分もある。CNTなどを含む産業廃水や廃液からCNTを取り除く処理技術も、まだ報告されていないという。
産総研はこれまで、「CNTの安全性評価」や「免疫細胞内CNTの定量測定」を行うための方法を開発してきた。今回は、CNTを含む廃水を工業的に処理し、CNTを除去する方法の開発に取り組んだ。
実験では、濃度が5、50、100mg/Lの単層CNT(SWNT)と多層CNT(MWNT)の水分散溶液に、1.25%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を添加。これを37℃の温度で反応させたところ、96時間後にはCNT水溶液の色が「黒」から全て「透明」に変わった。光吸収法により、溶液中のCNT濃度を定量測定したところ、時間経過とともにCNTが減少し、最後はほぼゼロになることが分かった。
また、異なる界面活性剤によって分散された、3種類のCNT分散液と次亜塩素酸ナトリウム水溶液を混合し反応させた。そうしたところ、CNTが完全に除去されることが分かった。このプロセスは極めてシンプルで、CNT製造工場や加工工場などで容易に利活用できるとみている。
研究チームは、透過型電子顕微鏡による観察とラマン分光の測定を行い、分解過程にあるCNTの構造変化を調べた。次亜塩素酸化合物によるCNTの分解メカニズムを解明するためである。
ラマン散乱スペクトルでは、CNTが分解するにつれて、欠陥由来のピークが増加しグラファイト構造由来のピークが減少。新たに欠陥由来のD’ピーク(CNTのラマン散乱スペクトルの1620cm-1付近にあるピーク)が現れた。電子顕微鏡による観察結果も含めて考察した結果から、「CNTは次亜塩素酸化合物による酸化によって壁が少しずつ崩され、グラファイトシート状の破片となり最後は完全に分解した」と研究チームはみている。
開発した方法によりCNTを除去した産業廃水の安全性を確認するため、残液中の成分を調べた。まず、残液中の次亜塩素酸ナトリウムを除去するため加熱し、全炭素量を測定した。この結果、炭素量は検出限界(4μg/L)以下であった。
続いて、残液に塩化カルシウムを少量添加したところ、直ちに白濁した。この結果から炭酸イオン(CO3-2)が含まれていることが分かった。残液を塩酸で中和し、乾燥した物質をSEM/EDS(走査型電子顕微鏡観察/エネルギー分散型X線分光法)で元素マッピングした。残液中にはナトリウム(Na)イオンと塩素(Cl)イオンのみが存在していたという。
これらの実験結果から、次亜塩素酸ナトリウムによってCNTが完全に分解され、無害のNaイオン、ClイオンとCO3-2が生成されたと分析している。
研究チームは、カーボンナノホーンや異なる手法で合成したSWNTやMWNTなど、7種類の異なるナノ炭素材料の分散液も、開発した方法で処理してみた。その結果、7種類全てのナノ炭素材料が完全に分解されたことを確認した。
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