理化学研究所(理研)と金沢大学の共同研究チームは、スピネル化合物「Ir2O4」の電子状態を第一原理計算で理論解析したところ、単極子(モノポール)が粒子のように振る舞う「U(1)量子スピン液体」の状態が、従来に比べて高温で出現することを発見した。
理化学研究所(理研)と金沢大学の共同研究チームは2019年2月、スピネル化合物「Ir2O4」の電子状態を第一原理計算で理論解析したところ、単極子(モノポール)が粒子のように振る舞う「U(1)量子スピン液体」の状態が、従来に比べて高温で出現することを発見したと発表した。
共同研究チームは今回、U(1)量子スピン液体を実現する量子スピンアイスの候補物質として、スピネル型構造のイリジウム酸化物「LiIr2O4」から、Liイオンが脱離した「Ir2O4」に着目した。この物質は数十meVのエネルギーギャップを持つモット絶縁体であるが、磁気的性質は明らかにされてこなかったという。
共同研究チームはまず、Ir2O4をバルク結晶とした場合の電子構造や光学伝導度などを計算した。この結果、これまで実験で観測されてきたバンドギャップと光学伝導度の周波数依存性について、高い再現性を示すことが分かった。
次に、低温環境における磁気秩序の状態を解析した。これにより、低エネルギーにおけるIr2O4のスピン自由度が、量子スピンアイスの一般的な有効スピン模型で記述されることを示し、その模型の定数を定量的に見積もることに成功した。この結果、「スピンアイス則」の相互作用が、従来の磁性希土類パイロクロア型酸化物と比べ、2桁も大きい30meV程度に達することが明らかとなった。
量子スピンアイス模型は、スピンアイス則など4つの相互作用があり、その強さによって、「U(1)量子スピン液体」あるいは、「単極子がボーズ−アインシュタイン凝縮を起こした相(強磁性相または反強磁性相)」になるかが決まるという。今回のバルク結晶に対する計算では、単極子がボーズ−アインシュタイン凝縮を起こした反強磁性相になることが分かった。
さらに、エピタキシャル成長でMgO(100)基板上にIr2O4薄膜を作製したケースを想定し、第一原理計算を行った。これにより、薄膜だと強磁性相で安定になることが分かった。
MgO基板上のIr2O4は、正方晶系のひずみを持ち、その面内格子定数は3.3%も圧縮されている。MgOのMg(マグネシウム)を部分的にZn(亜鉛)へ置換すると、基板の格子定数を伸ばすことができ、Ir2O4の面内格子定数は圧縮度を緩めることが可能となる。これによって、単極子が自由に伝わるU(1)量子スピン液体が実現する。しかも、U(1)量子スピン液体としての振る舞いは、10K(約−263.15℃)という比較的高い温度で出現することが分かった。
今回の共同研究は、理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子物性理論研究チーム(開拓研究本部古崎物性理論研究室)の小野田繁樹専任研究員、金沢大学ナノマテリアル研究所の石井史之准教授(当時は理工研究域数物科学系准教授)らによるものである。
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