東京大学の山田淳夫教授らによる研究グループは、MXene(マキシン)と呼ぶ層状化合物の層間ナノ空間に閉じ込められた、リチウムイオンと結合している水分子が、「負の誘電率」という特性を持つことを発見した。高エネルギー密度の電気二重層キャパシター(EDLC)の開発につながる可能性が高い。
東京大学大学院工学系研究科の山田淳夫教授と大久保將史准教授らによる研究グループは2019年2月、MXene(マキシン)と呼ぶ層状化合物の層間ナノ空間に閉じ込められた、リチウムイオンと結合している水分子が「負の誘電率」という特性を持つことを発見したと発表した。この特性を利用すると、高エネルギー密度の電気二重層キャパシター(EDLC)を開発することが可能になるという。
今回の研究は、産業技術総合研究所(産総研)の大谷実研究チーム長や安藤康伸主任研究員と共同で行った。EDLCは、微小な空間(ナノ空間)に電子とイオンを高密度に閉じ込めることで、電気を効率的に蓄えることができる。ナノ空間には、イオンに結合している水分子も一緒に閉じ込められているが、その特性はこれまで明らかになっていなかった。
山田氏らの研究グループは、MXeneと呼ぶ層状化合物を電極材料として、各種アルカリ金属イオンを用いてEDLCを作製し、これらの電気二重層容量を測定した。1nm以下の空間にイオンと水分子を閉じ込めると、リチウムイオン>ナトリウムイオン>カリウムイオン>ルビジウムイオンの順番で容量が増加することが分かった。これは、水和イオン半径から予測される傾向とは逆の異常な現象である。
この現象を解明するため産総研の大谷氏らは、MXeneの層間ナノ空間にイオンと水分子を閉じ込めた状態について、古典溶液論と第一原理計算に基づいた計算シミュレーションを行った。この結果、層間ナノ空間に生じる静電ポテンシャル分布は、イオン種に大きく依存することが分かった。
実験とシミュレーションの結果から、得られる容量と静電ポテンシャル分布の相関を分析した。これにより、「リチウムイオン」や「ナトリウムイオン」と一緒に閉じ込めた水分子は、「負の誘電率」を持っていることが明らかとなった。
この特性は、層状化合物に閉じ込められた水分子が、同時に閉じ込められた電子とリチウムイオン間で生じるサブナノメートル級の変調を持つ外部の電場と共鳴。これによって、過剰遮蔽と呼ばれている誘電応答を示し、ナノ空間には外部の電場と逆方向の内部電場が生じる、異常な電位分布を形成することが分かった。一方で、水分子と相互作用の弱い「ルビジウムイオン」や「カリウムイオン」では、水分子の「負の誘電率」を確認することはできなかったという。
電子とイオンの間で生じる外部電場を打ち消す現象は、ナノ空間における電子とイオンの高密度な貯蔵を、小さいエネルギー(電位差)で行えることに相当するという。結果としてより多くの電気を蓄積することが可能となった。具体的には、リチウムイオンを使ったEDLCでは、負の誘電率を示さないイオンを用いた場合に比べて、1.7倍の蓄電ができることを確認した。
水が負の誘電率を持つことで電気二重層容量が増加する現象は、「Ti2CTx」「Ti3C2Tx」「Mo2CTx」といったMXeneだけでなく、グラフェンや層状化合物「MoS2」など、他の層状化合物でも確認することができたという。
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