表1は、代表的なTV(他のものは省略した)のメーカー、型名、内部構造および基板の枚数をまとめたものである。上からシャープの8K TV「8T-C60AX1」、ソニー4K TV「A9F」、そしてHisenseのE8000だ。
シャープはディスプレイの裏側のほぼ全面に基板やスピーカーが配置され、ディスプレイサイズと同じだけのエリアに基板や部品が並ぶ。基板の枚数は8枚。さらに配線が非常に多く、どのように接続されているのかを読み取るのにも手間がかかるものであった。ソニーA9Fは6枚基板で構成されているが、2層構造の基板配置となっており、複雑な造形の中に配線が回り込んでいて、これも接続関係を読み取るには骨が折れるものであった(分解もしかり)。
つまり、シャープ製、ソニー製ともに非常に複雑なものであった。一方で55E8000は先述した通り、基本的に3枚だけの基板で構成されている。配線も、電源2本(電源基板からTCON、電源基板からTV基板)、スピーカー2本、TCONとTV基板1本、Wi-Fi基板とTV基板1本のわずか6本だけ。しかも3枚の基板は横並びで配線の長さも最短だ。
弊社ではカーナビやスマートフォン、各種ガジェットなどの分解を行っているが、中国製品には上記TVとほぼ同じ特徴がある。日本製に比べて機能がほぼ同じでも、基板の枚数が少ないことだ。また配線も最短化され、本数も少ない(基板が減れば一般的には配線も減る)。
今回報告した55E8000は、東芝のTV部門が買収された後の製品で“日中合作”と見るべきだろう。基板枚数や構成も極めてシンプルにできており、極めて分解もしやすいものであった。
日本製品は高度で性能も高い。しかしそれゆえに複雑だ。基板が6枚あれば、6回発注せねばならないしテストも6回しなければならない。これがもし2枚減れば、工程もテストも減るはずだ。中国製品のシンプルさは、コスト面でも管理面でも、不良発生のポテンシャルでも有利になる可能性は高い。
外観はほぼ同じに見えるTVでも、内部はこれほどに異なる。複雑にすれば、性能や機能が改善することも多いだろう。だが、シンプルにすれば良いこともある。
どちらが良いかという問題ではないが、ほぼ同時期に分解したこれらのTVの内部観察を経て、シンプルに作った方が、コスト面では間違いなく有利であることを確信した。
HisenseのTVは4K有機ELとしては格安だ。それはひとえに、シンプルに作られているからだろう。性能が劣るわけでは決してないと思われる。なぜなら、内部は実績の高いLG Electronicsのパネルと、ソニー製チューナー、東芝、MediaTek製プロセッサなのだから。優れた部品を採用しながらも、シンプルな構造にすることでコスト対応ができているものだと判断する。
今後も上記のような観点も踏まえ、製品分解、解析を進めていく。
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