自動運転技術では、運転者による「認知」と「判断」、「操作」のサイクル(運転タスク)をどこまで自動化していくかが、基本となる。従って自動運転の要素技術も、センサーによる認知、人工知能を含めた情報処理による判断、アクチュエーターによる操作の3つに分かれている。
自動運転技術とは別に、自動車では電子化(機械制御から電子制御への変更)が進んできた。電子制御を支えるのが、電子制御ユニット(ECU)である。パワートレイン制御、ボディー制御、シャシー制御などにECUが使われている。用途別に、自動車を進化させてきたともいえる。
ただし、自動運転システムの高度化に対応することは、用途別のECUだけでは難しい。今後は、これらの用途別の制御だけではなく、全体を統合して制御する「車両統合制御ECU」が必要となる。
2019年版実装技術ロードマップでは、「車両統合制御ECU」を搭載した乗用車の実例として、アウディ ジャパンが2018年9月に発表し、10月に国内販売を開始した新型「Audi A8」(8年ぶりのフルモデルチェンジ)を取り上げている。
この新型「Audi A8」は、「セントラルドライバーアシスタンスコントローラー(zFAS)」と呼ぶ車両統合制御ECUを搭載した。zFASと数多くのセンサー群の搭載により、レベル3に相当する自動運転機能(このシステムを「AI Traffic Jam Pilot」と呼んでいる)を実現した。具体的には、高速道路で走行中に渋滞に遭遇し、走行速度が時速60km以下になった場合に、運転者のタスクを全てシステムが代行できる。ただし現在では各国での法整備が追い付いておらず、運転者がこの機能を使用することはできない。
車両統合制御ECUの「zFAS」は、いくつかの高性能な半導体チップを搭載している。Moblieyeの画像処理プロセッサ「EyeQ3」(交通標識の認識、歩行者の検知、走行レーン認識など)、NVIDIAの画像処理プロセッサ「Tegra K1」(360度カメラの撮影データ取り込みと撮影データ処理など)、Altera(Intel)のFPGA「Cyclone V」(オブジェクト統合、地図統合、駐車タスク、センサーデータの前処理など)、Infineon Techologiesの32ビットマイコン「Aurix」(渋滞でのタスク、全体の補助など)などである。
zFASに集められるデータは非常に多い。「Audi A8」のフロントには6個の超音波センサーと、2個の中距離(ミッドレンジ)レーダー(フロントの左右角に配置)、1個の長距離(ロングレンジ)レーダー、1個の360度カメラ、1個のレーザースキャナー(LiDAR)を装備する。フロントウィンドウ上端には1個の前方監視カメラを備える。左右のドアミラーには360度カメラを1個ずつ装着してある。リアには6個の超音波センサーと2個の中距離(ミッドレンジ)レーダー(リアの左右角に配置)、1個の360度カメラを備える。センサーとカメラ、スキャナーの数は合計で23個に達する。これらのセンサー群によって得たデータから、車両統合制御ECUは車両周囲の環境モデルを構築する。
このほか、運転者の状態を監視してzFASに伝えるカメラを車内の計器パネルに取り付けてある。
(次回に続く)
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