筆者は、東芝メモリとWDの営業利益率の差は、SSDビジネスに起因するものと考えている。図5に、四半期毎のSSDの出荷台数シェアを示す。一目見て分かるのは、シェア1位のSamsung(29.6%)と2位のWD(17.1%)が突出しており、3位以下が団子レースになっているということだ。その団子の中に、東芝メモリ(9.1%)は混ざっている。
WDは東芝メモリと共同開発して製造したNANDフラッシュという部品に、コントローラとキャッシュメモリのDRAMをつけ、SSDというシステムとして出荷している。一方、東芝メモリは、ほとんどのNANDフラッシュが、中国メーカーのスマホ用に“部品売り”されていると聞いている。
NANDフラッシュに付加価値をつけてSSDとして販売するか、NANDフラッシュを部品としてそのまま売るか。WDと東芝メモリの営業利益率の差は、このようなビジネス(というよりシステム設計という技術)の差から生じるものと思われる。
東芝メモリのSSDビジネスが弱いことは、ずいぶん前から指摘されていたが、やっとその弱点を克服する行動に出た。東芝メモリが2019年8月30日に、台湾Lite-onのSSD事業を1億6500万米ドル(約173億円)で買収すると発表したからだ(日経新聞2019年8月31日付)。
東芝メモリは2020年前半までに事業買収完了を目指すとしているが、買収が完了すれば、SSDのシェアは東芝メモリとLite-onの合計で12.7%となり、3位の団子レースから一歩抜け出すことができる(図6)。
1位のSamsungと2位のWDにはまだ距離があるが、やっと追い上げる態勢が整ったと言えるかもしれない。日韓経済戦争が泥沼化しているため、いつメモリ不況が明けるのか予測できないが、東芝メモリには、この窮地を乗り越えて、技術でもビジネスでも、Samsungに迫ってほしいと思う。さらに将来資金の余裕ができたら、DRAMメーカーの台湾Nanyaを買収すると、いいのではないだろうか? 現在SSD製造のボトルネックとなっているDRAMの調達に困らなくなるからだ。
2019年11月6日(水曜日)に、東京・港区浜松町 ビジョンセンター浜松町にて「【緊急開催】米中ハイテク戦争に加えて日韓貿易戦争勃発 −先が見えない時代をどう生き延びるのか?− 」と題したセミナー(主催:サイエンス&テクノロジー)を行います。米中ハイテク戦争と日韓貿易戦争からビジネスを防衛するための処方箋について、筆者が講演します。
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
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