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製造装置市場にジワリと進出する韓国、ローカルでは独占分野も湯之上隆のナノフォーカス(19)(3/3 ページ)

» 2019年11月18日 11時30分 公開
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日韓貿易戦争の影響

 2019年7月に、日韓貿易戦争が起きた。日本政府は、まるで真珠湾攻撃のように突然、3種類の半導体材料の輸出管理強化を発動し、加えて8月末に、輸出の優遇措置を適用する「ホワイト国」から韓国を除外した。

 これに対して韓国政府は、8月5日に「素材・部品・装備競争力強化対策」を発表し、半導体、ディスプレイ、自動車、電機・電子、機械・金属、基礎化学の6大分野から100品目を戦略品目に指定した。そして、日本企業がシェア7〜9割を握るフッ化水素、レジスト、フッ化ポリイミドなど20品目については1年以内に日本以外から安定供給すること目指すとし、残る80品目についても、5年以内に達成するとしている(日経新聞2019年8月5日)。

 Samsung Electronics(以下、Samsung)やSK hynixの立場に立ってみると、「日本製のものがボトルネックになっている」ことを可及的速やかに排除せざるを得ないと考えられる。日韓関係次第では、日本政府がいつまた何かに輸出管理強化を発動するか分からないからだ。

 従って、半導体の製造装置においても、日本製品を排除するような力学が働くと推測できる。日本製のシェアが高い装置はもちろんのこと、シェアの低い装置であっても、極力日本製を排除していくと考えられる。

 すると、キヤノンやニコン製の露光装置、TEL製のコータ・デベロッパ、TEL製のドライエッチング装置、ULVACやキヤノンアネルバ製のスパッタ装置、荏原製作所製のCMP装置、スクリーンやTEL製の洗浄装置、日立ハイテクノロジーズ製の欠陥検査装置などは、今後韓国市場のシェアが下がると考えられる。

 一方、韓国にはSamsungとSK hynixがあるため、この2社が設備投資を拡大させるに従って、韓国ローカルメーカーの装置を大量に導入することになると考えられる。その結果、韓国市場はもちろん、世界市場においても、韓国の装置メーカーがシェアを増大させ、いずれ世界シェア1位の韓国企業が誕生してもおかしくないと言えるだろう。

韓国で失ったシェアを中国で取り戻せ

 日本の製造装置メーカーは、韓国市場で失った(今後失う)シェアを、どこかで取り戻さなければならない。その当てとして考えられるのが、中国市場である。

 中国は、国家政策「中国製造2025」に基づいて、半導体の自給率を高めようとしている。そのため、巨大半導体工場が次々と建設されている。3次元NAND型フラッシュメモリを製造する長江ストレージ、DRAMを製造しようとしているJHICCやCXMTなどである。

 ところが、「中国製造2025」に危機感を抱いた米国政府が、これに待ったをかけようとしている。実際、米商務省は2018年10月29日に、JHICCをエンティティーリスト(EL)に追加した。その結果、AMAT、Lam Research、KLAなど米国製の装置の輸出が禁じられ、JHICCのDRAM製造は頓挫した。

 しかし、諦めない中国は、紫光集団が成都にJHICCやCXMTの勢力を結集して、DRAMの製造を行おうとしている。これに対して、再び、米商務省が紫光集団をELに加えるかもしれない。

 要するに、米国製の装置は、中国の半導体メーカーが導入できなくなる可能性が高い。すると、ここに、日本企業が参入するチャンスがあると考えられる。

 本稿では、製造装置の企業別シェアの動向を分析した。装置メーカーのビジネスに、米中ハイテク戦争や日韓貿易戦争が大きく影響する事態となっている。装置には数千点の部品や設備が使われている。これら部品や設備メーカーも、米中と日韓戦争の影響を大きく受ける。あらゆる企業が自社のビジネスを防衛し、さらに成長するためには、マーケティングの強化が欠かせない時代になったと言えよう。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧

筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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