本シリーズの前々回で述べたように、5G移動通信システムは、「超高速通信」「低遅延」「同時多数接続」といった特長を有する。一方で搬送周波数が4G移動通信システムの2GHz以下から、5G移動通信システムでは3.7GHz/4.5GHz/28GHzと高くなる。
一般に電波の周波数が高くなると、大気中の減衰(伝搬距離当たり)が大きくなるとともに、回折(電波の回り込み)が弱くなる。すなわち、同じ出力だと1個の基地局がカバーできる面積が狭くなる。そこで小さな基地局(スモールセル)を数多く設ける、電波の指向性を高めるといった対策が考えられている。
また、「超高速通信」「低遅延」「同時多数接続」のそれぞれを実現するためには、技術開発とインフラストラクチャのリソースを多く必要とする。そこで5G移動通信サービスは、少なくとも2つの段階を経て進む見込みである。
最初の段階(5G導入当初、2020年)は、通信需要の大きな地域(大都市圏)を中心に、「超高速通信」のサービスを提供する。具体的には、既存の4G移動通信システムのLTE基地局を強化し、5G移動通信システムの小さな基地局(スモールセル)と有線接続することで、スモールセルのカバー地域で5Gの高い周波数による超高速通信サービスを展開する。5G導入当初の段階では、「低遅延」と「同時多数接続」のサービスは提供されない。
次の段階(5G普及期、2020年代中とされる)では、カバー地域を広げた基地局(マクロセル)が数多く設けられることで基幹回線網(コアネットワーク)を形成し、「低遅延」と「同時多数接続」のサービスを提供できるようになる。ここで注意しなければらないのは、「超高速」と「低遅延」、「同時多数接続」は両立するサービスではない、ということだ。「超高速」のサービスは遅延時間が長い。「低遅延」のサービスは速度が低い。「同時多数接続」のサービスでは速度は低く、遅延時間は長くなる。全てを両立させることは、技術的には不可能に近い。
(次回に続く)
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