――大きく需要が拡大するという見込みですが、供給体制についての方針は。
夏目氏 2018年には半導体業界全体のウエハー供給能力が厳しい状況だったこともあり、顧客からは確実な供給能力を求められている。オンセミはこうした要求にこたえるため、積極的に生産能力強化を進めてきた。ワールドワイドで生産拠点を展開し、安定した供給を実現。また、2016年にはFairchild Semiconductorを買収した。韓国の富川市にも150mm、200mm工場を取得するなど、旺盛な需要に対して拡大の準備をしている状況で、2019年には2016年から比較し生産能力を35%拡大している。
また、300mmウエハーについては現在Infinion Technologyが先行しているが、われわれも2019年に米国ニューヨーク州イーストフィッシュキルにあるGLOBALFOUNDRIESの300mmウエハー対応工場を取得した。2022年までにオートモーティブ向けに使われる中耐圧および高耐圧のパワーMOSFETやトレンチIGBT、アナログ半導体、BCD(バイポーラ・CMOS・DMOS)のプロセスを立ち上げ、旺盛な需要にも確実に対応できるように準備を進めている。
2020年中には一部の製品供給を開始し、2022年末までには全製品が供給できる状態になる予定で、売上高の規模は1年当たり約22億米ドルを見込んでいる。現在、300mm工場の立ち上げ時期を明確にし、2025年に見込まれる市場規模にむけてクリアに準備できているというメーカーは多くない。
通常、2、3年で工場を立ち上げる、というのは非常に難しいチャレンジだが、われわれは工場そして新しいプロセスを立ち上げるリソースをチームとして強化している。実際に2018年からは200mmラインの生産能力増強の一環として、オン・セミコンダクター会津への投資も強化しているが、ほぼ1年で立ち上げができている。こうしたノウハウを生かして300mmの立ち上げも確実に進めていく。
――注力市場で展開するために、オンセミ独自の強みとして挙げられるのは。
夏目氏 われわれはオートモーティブや、5G普及の本格化によるクラウド関連への活発な投資、そしてIoT(モノのインターネット)などのメガトレンドに向けてソリューションを展開しているが、急速な市場の拡大スピードに対して自前で立ち上げるだけでは追い付くことができない。そのため先端技術を積極的にグループに取り込んできており、近年複数の企業を統合している。われわれは必要な技術を素早く取り入れ、その良さを最大限発揮するというノウハウに長けており、技術トータルの資産構築ができるというのも強みになっている。
そのうえで、一番の強みとして挙げられるのが、確実で安定したサプライチェーンのもとで、全製品を包括するアプリケーション力だ。競合との競争力として、デバイス単体だけではなく、顧客の要望に応じたトータルサポートができる、といえる力は重要だ。パワー半導体についてはモジュールとしての提供やダイでの供給も可能なほか、コントロールのためのLSIなども同時に提案できる。オンセミは全方位で全ての顧客の要求に製品ラインアップを備え、アプリケーション全体として統合的にサポートできる力を強みとして確立しており、今後もさらに強化していく。また、特に自動運転ではセンサーがキーになるが、オンセミではセンサーとパワーデバイスの2軸をリンクさせ、オートモーティブ市場での拡大を進めている。
――SiCの製品展開、開発の現状と方針について教えてください。
夏目氏 自動車サプライヤー各社は、2025年までの市場について非常に積極的な将来図を描いているが、CO2の削減、さらなる小型化、高効率化などを考えるとシリコンデバイスでの展開は限界が見えてくる。従ってSiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体の機能、性能、コスト改善といった課題を解決をしていく必要がある。そうした中でオンセミでは、Fairchild Semiconductor買収によって取得した技術を利用し、2017年からSiCデバイス供給市場に本格的に参入、積極的な投資を進めている。2018年の売上高としては2000万米ドル程度の規模だが、2025年までに現在の4〜5倍の規模に拡大する計画となっている。
SiCダイオードについては既に具体的な製品展開を進めており、現在の売上高はほぼ全てインダストリアル向けのダイオード製品だ。FETについてもオンセミとして初めての1200V耐圧のSiC-MOSFETをリリースするなど、ラインアップの拡充を進めている。自動車の電装化が積極的に進み、2022年にはオートモーティブ向けのアプリケーションとして大きく拡大していくことを期待している。顧客からはモジュールタイプの要求が多く、インバータに向けたより高放熱でハイパワーなパッケージを含めた展開をしていく方針を立てている。モジュールだけでなく、顧客が自らボード、モジュールに組み込むことを求められる場合などには、ダイの供給も積極的にサポートしていく。
――SiCウエハー不足が問題視されているが、対応策について。
夏目氏 2018年に外部の有力な供給メーカーと中長期契約を結び、中期に向けた確保はできている。それだけでなく、もう1つの強みとしてオンセミは結晶生成、エピ成長などの工程を内部に保有していることが挙げられる。シリコンでは既に内製が増加しつつあるが、その技術を用いてSiCウエハーについても結晶成長から自社で行う計画を立てている。オンセミとしては、2022年末までにSiCウエハーの50%を内製するという目標を掲げており、技術開発スケジュールもそれにリンクして進行している。
――GaNの開発、製品展開の方針についてはいかがでしょうか。
夏目氏 GaNについては、オンセミはベルギーの研究機関と共同で業界ではかなり先行して立ち上げ、GaN HEMTs(高電子移動度トランジスタ)製品のラインアップを有している。これまで小型化が必要とされる特殊な用途の電源向けへの展開をしてきた。
しかし、SiCのFETを各社が発表しSiCデバイスのパフォーマンスが見えてきたなかで、650Vの高電圧エリアについては、GaNを利用するほうがよりパフォーマンスが発揮できるとして注目度が高まっており、2019年半ばごろから、問い合わせが急増している。この半年で急速に高まった流れであり、具体的に固まっているわけではないが、この要望を受ければ、現在の100〜200Vの低電圧高周波向けから、よりハイパワーなGaN製品の開発へと移行する可能性がある。
ただ、製品のバランスとしては、SiCは2022年の拡大の予測ができている一方で、GaNは現状2インチプロセスを用いている。今後2年で急速に150mmプロセスのSiC並みにまで追い付くことができるかといえば、まだ時間は必要だろう。シリコンを含めそれぞれ得意な領域に対してどう当てはめていくか、という段階ではある。
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