東京理科大学と東北大学、東京大学の研究グループは、固体中の電子がソフトマターのように振る舞うことを発見し、その発現メカニズムを解明した。
東京理科大学と東北大学、東京大学の研究グループは2020年2月、固体中の電子がソフトマターのように振る舞うことを発見し、その発現メカニズムを解明したと発表した。
今回の成果は、東京理科大学理学部応用物理学科の大学院生である山本陸氏と古川哲也助教(研究当時)、伊藤哲明教授、東北大学金属材料研究所の佐々木孝彦教授および、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の宮川和也助教と鹿野田一司教授らの研究グループによるものである。
電子は、物質の中で互いに反発し合う。反発力の大きさによって、電子の粒子性と波動性が移り変わる。「モット移転」と呼ばれるこの現象の近傍では、高温超伝導や巨大磁気抵抗などが観測されている。ただ、モット移転近傍における性質の解明は、これまで十分に行われていなかったという。
そこで研究グループは、モット転移近傍に位置する有機物質にX線を長時間照射するなどして、電子の振る舞いを検証した。試料として用いたのは、加圧とX線照射によって、電子相関と結晶構造の乱れを、それぞれ独立に制御することができる擬二次元有機物質「K‐(ET)2Cu[N(CN)2]Cl」(以下、KCl)である。
具体的には、「核磁気共鳴(NMR)実験装置を用いて、X線を500時間照射することで乱れを導入したKCl」と、「X線を照射していないKCl」の電子状態を調べ比較した。その結果、X線を500時間照射されたKClは、X線を照射していないKClに比べて、電子の動きが100万〜1億倍も遅くなっていることが分かった。
このことは、乱れを導入したことにより、モット転移近傍に位置するKClは、「電子がソフトマターのように振る舞う、特異な状態となっていることを意味している」という。X線を500時間照射したKClに圧力を加えると、ソフトマターのように振る舞う状態は消失することも分かった。
研究グループはこれらの実験結果から、試料が「モット転移近傍に位置し、結晶構造に乱れを有する」という2つの要因を同時に満たした場合には、「電子がソフトマター的な振る舞いを示す」と結論付けた。
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