京都大学らの共同研究グループは、テラヘルツ(THz)帯の反強磁性共鳴によるスピンポンピング効果を実証した。この現象がTHz帯の磁化ダイナミクスを有する反強磁性体で観測されるのは初めてという。
京都大学は2020年3月、テラヘルツ(THz)帯の反強磁性共鳴によるスピンポンピング効果を実証したと発表した。この現象がTHz帯の磁化ダイナミクスを有する反強磁性体で観測されるのは初めてという。
今回の成果は、京都大学化学研究所の森山貴広准教授、小野輝男同教授らの研究グループと、岐阜大学工学部の林兼輔博士課程学生、山田啓介同助教、嶋睦宏同教授、大矢豊同教授および、カリフォルニア大学ロサンゼルス校物理学科のYaroslav Tserkovnyak教授らの共同研究によるものである。
従来のマイクロ波デバイスは、ギガヘルツ(GHz)帯に共鳴周波数を持つ強磁性体が用いられてきた。しかし、強磁性体はTHz帯でほとんど応答しないという。このため、通信周波数としてTHz帯域の活用が想定されているポスト5G向けに、反強磁性体を利用したTHzデバイスの研究が行われている。
研究グループは今回、1THz付近に共鳴周波数を有する反強磁性体の「酸化ニッケル(NiO)」に着目し、反強磁性磁化ダイナミクスからスピン流への変換現象(スピンポンピング効果)について調べた。
まず、酸化ニッケル中に重金属(白金やパラジウム)粒子をさまざまな比率で分散させたグラニュラー構造物質((NiO)1-xHMx)を焼結法で作製した。この試料に対し、周波数を変化させてTHz透過吸収測定を行った。試料は、NiOの反強磁性磁化ダイナミクスにより、スピン流(Ispump)が生成され、白金やパラジウムの粒子に注入されて、重金属中にスピンが蓄積された。
重金属はスピン軌道相互作用が強く、Ispumpのほとんどは散逸。残ったわずかなスピン蓄積でスピン流の逆流(IsO)が起こる。反強磁性磁化ダイナミクスのダンピング定数は、スピン散逸の大きさに比例して増加することが理論的に分かっている。このことから、グラニュラー物質中の重金属比率を高めるとスピン散逸が増加し、NiOにおいて磁化ダイナミクスのダンピング定数が大きくなると予想した。
一般的に、反強磁性磁化ダイナミクスのダンピング定数は、反強磁性共鳴のスペクトル線幅から推定できるという。THz透過吸収測定で得た(NiO)1-xPtxの共鳴スペクトルでは、NiOの反強磁性共鳴による吸収ピークが周波数1THzで観測された。さらに、白金の組成比(x)に関わらず、共鳴周波数は一定であるのに対し、共鳴スペクトル線幅は、xが増加すると大きくなることも分かった。
今回の実験結果は、スピンポンピング効果の理論予想と一致していることが分かった。研究グループは、スペクトル線幅およびダンピング定数のx依存性から、スピンミキシングコンダクタンスを求めた。この結果、白金とパラジウムそれぞれで12nm-2および、5nm-2という値が得られた。これらの値は、強磁性体におけるスピンポンピング効果と同程度であることが分かった。
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