NTTと東京大学、NTT東日本は、1×10の−18乗の周波数精度を保ちながら、240kmの光周波数ファイバー伝送に成功した。この技術を用いると1cm精度で標高差測定が可能となり、微小な地殻変動をリアルタイムで観測できるという。
NTTと東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授(理化学研究所光量子工学研究センターチームリーダー、同開拓研究本部主任研究員)、NTT東日本は2020年3月、1×10-18の周波数精度を保ちながら、240kmの光周波数ファイバー伝送に成功したと発表した。この技術を用いると1cm精度で標高差測定が可能となり、微小な地殻変動をリアルタイムで観測できるという。
NTTとNTT東日本はこれまで、東京大学本郷キャンパスからNTT厚木研究開発センターまで、複数の中継局(電話局)を結んだ実証実験用の超高精度光周波数伝送ファイバーリンクを構築してきた。今回の実験では、NTTが独自開発した平面光波回路(PLC)による差動検波型マッハツェンダー干渉計を採用し、光周波数中継装置(リピーター)を開発。このリピーターをカスケード接続してファイバーリンクを構成した。
具体的には、東京大学と理化学研究所が本郷〜和光間で光格子時計周波数の比較実験に用いた光ファイバーと、NTT東日本が新たに構築した本郷〜厚木間の商用ファイバーリンクの2つを本郷で接続し、和光(理研)〜本郷(東大)〜厚木(NTT)間における150km級光周波数伝送ファイバーリンクを構築した。本郷〜厚木間には3つの中継局舎を設け、リピーターを設置した。各リピーターは別の通信ネットワークを介し、遠隔で操作ができるという。
今回の伝送実験では、ストロンチウム光格子時計の光周波数基準(698nm波長帯)に対し、2倍の波長となる1397nm(215THz)波長帯をファイバー伝送する光周波数として用いた。実際には、和光から本郷、厚木までリピーターを介して伝送、厚木からはもう1本のファイバーを用いて本郷まで戻すループ網を構築した。
そして、東大より送った光周波数と、ループ網を伝わり戻ってきた光周波数の差を検出し、ファイバーリンク伝送の周波数安定度を評価した。この結果、周波数安定度は、1秒間のデータ積算時間で3×10-16、2600秒で1×10-18と評価された。
今回の伝送実験では、大きく2つの技術を採用した。1つは、東京大学と理化学研究所、NTTが開発した「1397nm波長帯を用いたカスケード型ファイバー雑音補償技術」である。温度変化によるファイバーの伸縮や、振動など敷設環境による雑音の影響で精度が劣化するのを防止する技術である。
もう1つは、NTTが開発した「石英光導波路による集積型光干渉計技術」である。リピーターに、石英系平面光波回路(PLC)技術を適用した。リピーターレーザーの位相を同期するための光干渉計と、ファイバー雑音を検出するための光干渉計をワンチップに集積することで、リピーターを小型化し安定性や検出感度を高めた。
実験チームは今後、構築した超高精度周波数伝送ファイバーネットワーク環境を活用して、和光と厚木に設置する光格子時計の周波数比較実験を実施する予定。さらに、200km級の遠隔地間で数cm精度の標高差を検知する、相対論的測地の実証にも挑戦する計画である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.