東京大学の研究グループは、米国の研究グループらと協力し、室温でテラヘルツ周波数帯の高調波を、極めて高い効率で発生させることができる物質を発見、そのメカニズムも解明した。
東京大学物性研究所の神田夏輝助教と松永隆佑准教授らの研究グループは2020年3月、米国の研究グループらと協力し、室温でテラヘルツ周波数帯の高調波を、極めて高い効率で発生させることができる物質を発見し、そのメカニズムも解明したと発表した。
神田氏らと米国の研究グループらは今回、品質の高いヒ化カドミウム(Cd3As2)薄膜に着目した。Cd3As2はディラック半金属と呼ばれ、電子が3次元的に質量ゼロのように振る舞うなど、その性質が注目されている。ディラック電子によって生じる電流は非線形性が強く、テラヘルツ周波数帯の高次高調波を効率よく発生させることが理論的に予測されていた。ところが、実験による検証はこれまで行われていなかったという。
研究グループは、物性研究所内にあるレーザー光源を用いて、狭帯域の高強度テラヘルツパルス(周波数0.8THz)を発生させ、厚み240nmのCd3As2薄膜に照射した。この結果、3倍、5倍の周波数成分を持つ第三、第五高調波を観測することに成功した。
新たに開発した実験装置は、グラフェンのテラヘルツ高調波を机上で観測することができるという。このため、グラフェンとCd3As2の比較も行った。Cd3As2は、ほとんどの入射電場成分が表面で反射されるため、試料内部に入る電場はグラフェンに比べ約5分の1と少ない。ところが、発生した第三高調波の電場は約5倍も強いことが分かった。このデータは、Cd3As2において周波数変換が極めて効率よく行われていることを示すものだという。
研究グループは、テラヘルツパルスで励起された電子の時間変化を超高速に時間分解し、テラヘルツ高調波発生のメカニズムを解明することにした。今回の実験により、「Cd3As2薄膜中の電子が冷却に要する時間はグラフェンの電子よりもはるかに長い」ことや、「非線形応答が、等方的には現れない」ことなどが分かった。これは、熱力学的モデルで説明することができない結果だという。
池田達彦助教らの研究グループが、電子の散乱時間を考慮して理論計算したところ、Cd3As2薄膜のテラヘルツ高調波発生は、ディラック電子が加速されたことで生じる非線形電流によって説明できることが分かった。
研究グループによれば、Cd3As2薄膜に反射防止コーティングなどの表面加工を施したり、電場を局所的に増強するメタマテリアル技術を組み合わせたり、電極から直接電場を印加したりすれば、周波数変換効率をさらに改善できるという。
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