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“アフター・コロナ”の半導体産業を占う 〜ムーアの法則は止まるのか湯之上隆のナノフォーカス(24)(3/5 ページ)

» 2020年04月15日 11時30分 公開

ファウンドリー

 図5に、TSMCの直近6年間の微細化の推移を示す。TSMCは、2019年に順調に7nmプロセス(N7)の量産を立ち上げた。孔系にEUV(極端紫外線)を使うN7+も問題なく立ち上がっており、Huaweiのスマホ用アプロケーションプロセッサ(AP)に適用された。

図5:TSMCの直近6年間の微細化の推移(四半期毎) 出典:TSMCの決算報告書を基に筆者作成(クリックで拡大)

 2020年にTSMCは、孔だけでなく配線にもEUVを使う5nmプロセス(N5)による量産を立ち上げつつある。N5の開発は完了しており、コロナ騒動とは関係なく、量産は問題なく立ち上がっている。Appleの「iPhone」用APやHuaweiの次世代スマホ用APの製造にN5が使われるだろう。

 台湾はコロナを制御できている希少な地域の一つであるが、3月18日にTSMCの従業員1人にコロナ感染者が出たために、ちょっとした騒ぎになった(日経新聞3月19日)。この従業員は、入院して治療を受けている(技術者などではなく事務系の従業員の模様だ)。また、濃厚接触者の約30人は台湾当局の指示に従って14日間の隔離措置を実施している。TSMCの発表では、ファウンドリーの稼働に影響は出ていない。

量産工場で感染が拡大するリスクはどこに?

 しかし、TSMCだけでなく、半導体の量産工場で仕事をしている技術者やオペレータにコロナ感染者が出た場合は、相当厄介なことになるだろう。その技術者やオペレータだけでなく、濃厚接触者を隔離し、量産工場でコロナが付着していそうなところを総出で消毒しなければならないからだ。

 では、半導体工場のどこで、コロナの感染が拡大するリスクがあるだろうか? クリーンルーム(CR)内で技術者等は、防塵服、マスク、ゴーグル、手袋を着用している。従って、仮にコロナ感染者がいたとしても、CR内で感染拡大は起きにくい。

 問題なのは、CRに入るための更衣室であろう。更衣室では、技術者等は無防備である。その上、朝、昼食後、夕方など、混雑する時間帯があり、その際に感染するリスクがある。従って、更衣室に入る前に手を洗う、更衣室の入室人数を制限する、更衣室の定期的な除菌を行う、などの措置が必要になるだろう(既に実行している企業があるかもしれない)。

プロセッサ

 図6に、IntelとAMDのプロセッサの売上高シェアを示す。2016年Q3に最大82.5%あったIntelのシェアは次第に減少し、2019年Q4にはピーク時より14.1%少ない68.4%まで落ち込んでいる。逆に、AMDのシェアは31.5%まで上昇した。

図6:IntelとAMDのプロセッサの売上高シェア(%) 出典:PassMark(CPU Benchmark)のデータなどを基に筆者作成(クリックで拡大)

 Intelがシェアを低下させたのは、コロナのせいではない。2016年に微細化を14nmから10nmへ進めることに失敗した。その後、14nmプロセスを延命し続けているが、プロセッサの性能を上げるために、コア数を増大させた。その結果、プロセッサのチップサイズが大きくなり、1枚のウエハーから取得できるチップ数が減少し、プロセッサの出荷個数が激減した。最近得た情報では、14nmによる歩留まりも相当悪いようである(拙著記事:「インテル、困ってる? 〜プロセッサの供給不足は、いつ解消されるのか?)。

 一方、AMDは、最先端のプロセッサの製造をTSMCに委託している。TSMCでは、順調に立ち上がったN7プロセスでAMDのプロセッサを製造し、一気にIntelとのシェアの差を縮めている。

 この傾向は、コロナ騒動によってもっと加速するかもしれない。というのは、Intelは、アイルランド、イスラエル、米国の3カ国でプロセッサを製造しており、特に、非常事態宣言が出ている米国での製造は危機的状況に陥る可能性があるからだ。一方、AMDは、台湾のTSMCに製造委託しており、コロナの影響を受けにくい。

 ACの世界では、Intelがプロセッサの盟主から陥落している――それはあながち絵空事とは言えないのである。

 ここまで、各種半導体の製造を見てきた。今のところ、コロナによって半導体製造に甚大な被害が出たという報告は無い。各社とも、ウエハー、レジスト、薬液、スラリーなど、材料の供給が滞らない限り、半導体工場を稼働し続けるだろう。

 では、コロナによって問題が生じるのは、どのようなことなのか?

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