東京大学と横浜市立大学の研究グループは、超弾性発光クロミズムを示す「有機結晶」を見いだした。新たなセンシング材料の開発に弾みをつける。
東京大学生産技術研究所の務台俊樹助教と北條博彦准教授、横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科の高見澤聡教授と佐々木俊之助教らによる研究グループは2020年4月、超弾性発光クロミズムを示す「有機結晶」を見いだしたと発表した。研究成果は、これまで報告されてきたメカノクロミック発光の概念を拡張するもので、新たなセンシング材料の開発に弾みをつける。
クロミズムとは、熱や光、圧力など外部刺激で物質の色が可逆的に変化する現象のことである。変化した色を分光法などによって測定すれば、外部刺激の大きさを、高い精度で検出することができるという。特にメカノクロミック発光材料は、押さえたりこすったりする機械的刺激によって発光特性が変化することから、その応用が期待される材料の1つである。
ところが、これまで報告されているメカノクロミック発光材料の多くは、機械的刺激に対し、一方向かつ全体的に発光色が変化していた。しかも、変化した後に初期状態へ戻すには、加熱や再結晶など別の刺激が必要となっていた。そこで研究グループは、機械的刺激を与えると発光色が変化し、刺激を取り除けば自発的に初期状態に戻る材料の開発に取り組んできた。
務台氏らの研究グループはこれまで、2-(2’-ヒドロキシフェニル)イミダゾ[1,2-a]ピリジン(HPIP)やその誘導体が、結晶多形依存型発光を示すことを明らかにしてきた。高見澤氏らの研究グループは、特殊な合金に加え有機化合物でも超弾性現象が発現することを2014年に発表した。
今回の研究では、黄緑色と黄橙色の結晶多形依存型発光を示す7-クロロHPIP(7Cl)を用いた。黄緑色(YG)に発光する長さ約0.4mmの結晶について、その一端を接着剤で固定。反対側を金属の治具で押し下げて圧力をかけた。この結果、結晶YGが超弾性を示し黄橙色(YO)に発光する新たな結晶相が生じた。X線結晶構造解析を行ったところ、結晶YOであることが分かった。圧力を取り除くと、自発的にYGのみの状態に戻ったことから、可逆的なプロセスであることが証明された。
研究グループは引き続き、超弾性発光クロミズムを示す結晶の探索を行うとともに、より詳細な機構解析を進める予定だ。さらに、極めて小さい圧力や変位の検出など、新たな機械的センシングへの応用を模索していく。
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