プロセッサ市場では、ある異変が起きている。Intelが長年トップに君臨しているこの市場で、AMDがシェアを急速に拡大しているのだ。今回は、AMDの躍進の背景にいる2人の立役者に焦点を当てよう。
日米欧の各国で、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染者数がピークアウトし、都市封鎖や緊急事態宣言が解除され始めた。しかし新たに、ロシア、ブラジルなどの南米、インドなどのアジアで感染爆発が起きている。さらに、終息したはずの韓国で100人を超えるクラスターが発生するなど、第2波が到来している。従って、今も尚、コロナへの警戒を緩めるわけにはいかない。
このように世界中がコロナで大騒動している中で、ある異変に気付いた。x86アーキテクチャのプロセッサ(以下、単にプロセッサと呼ぶ)の市場シェアで、Intelが急落し、AMDが急上昇していたのだ(図1)。
Intelが10nmプロセスの立ち上げに失敗したころ、2016年第3四半期(Q3)に最大82.5%あったシェアは、2020年第1四半期(Q1)に66.7%に低下し、同年第2四半期(Q2)に65.8%になると予測されている。これに対してAMDのシェアは、2016年Q3に17.5%しかなかったが、2018年Q3から7nmプロセス以降をTSMCに生産委託し、その効果が表れ始めた2019年Q3ごろから飛躍的にシェアが上昇している。そして、2020年Q1に33.2%になり、同年Q2には34.2%まで拡大すると予測されている。
この問題について、Intel側の事情については、以下の分析を行った。
まず、Intelが10nmプロセスの立ち上げに失敗した原因は、M0とM1の配線材料にCuに替わってCoを使ったこと、M2〜M6のCu配線のバリアメタルにはTiまたはTiN等に替わってRuを使ったことにあると分析した(関連記事:「10nmで苦戦するIntel、問題はCo配線とRuバリアメタルか」)。
10nmの立ち上げに失敗したIntelは、14nmを延命することとなったが、プロセッサの高性能化のためにコア数を4→6→8個と増やしていった。その結果、プロセッサのチップ面積が増大し、それに反比例して1枚のシリコンウエハーから取得できるチップ数は減少した。このため、Intelは、アイルランド、イスラエル、米国にある3工場をフル稼働させても需要に応えることができなくなり、世界的なプロセッサの供給不足を招いてしまった(関連記事:「インテル、困ってる? 〜プロセッサの供給不足は、いつ解消されるのか?」)。
要するに、Intelがプロセッサのシェアを低下させている原因の一つに、“Intelの自滅”があることは疑いようがない事実である。
しかし、AMD側からこの問題を分析すると、全く違った景色が見えてきたのである。AMD躍進の背後には、2人の立役者がいる。第1に、現在Intelを追い詰めている高性能プロセッサのアーキテクチャ“Zen”を開発した天才設計者のジム・ケラー(Jim Keller)氏。第2に、AMDの女性CEOとして卓越した経営手腕を発揮しているリサ・スー(Lisa Su)氏(以下、敬称略)。
本稿では、この2人の活躍に焦点を当て、AMD躍進の要因を明らかにする。次に、数年後には、AMDがIntelに追い付き、追い越している可能性を論じる。しかし、現在この2人が対決する事態となっており、未来はどうなるか分からないことを述べる。
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