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二酸化バナジウム、強磁場で絶縁体から金属に変化強相関電子の絶縁性をスピンで制御

東京大学物性研究所と岡山大学異分野基礎科学研究所は、タングステン(W)を添加した二酸化バナジウム(VO2)が、500テスラの強磁場中で絶縁体から金属に変わることを発見した。

» 2020年07月22日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

室温動作量子機能デバイスの開発に期待

 東京大学物性研究所の松田康弘准教授らは2020年7月、岡山大学異分野基礎科学研究所の村岡祐治准教授らと協力し、タングステン(W)を添加した二酸化バナジウム(VO2)が、500テスラの強磁場中で絶縁体から金属に変わることを発見したと発表した。

 低温で絶縁体状態のVO2は、約67℃(340K)になると金属に相移転する。ところが、VO2を用いて、磁場によるスピン制御の実験を行うためには、少なくとも約250テスラ以上の磁場が必要となる。これを一般的な実験室で発生させるのは、極めて難しいという。

 東京大学物性研究所は長年、極めて強い磁場を発生させる技術の開発に取り組んできた。2018年には電磁濃縮法磁場発生装置を用いて、室内最高磁場となる1200テスラの発生に成功している。この研究対象として強相関物質であるVO2に着目した。

 実験に当たって今回は、VO2に加え、微量のWを添加したV1-xWxO2(xは0.036と0.06)の試料を用意した。Wを添加したのは移転温度を低くするためで、xの値が大きいと磁場効果が観測しやすくなると判断した。

 実験では岡山大学異分野基礎科学研究所がパルスレーザー堆積法を用いて成長させた薄膜結晶を利用した。磁場印加時の渦電流によって生じる発熱を避けるためだという。実験では、磁場による電気伝導性の変化を、近赤外レーザーの光透過強度から検出した。絶縁体状態では光透過率が高く、金属化によって透過率は急激に減少するという特性を生かし、電気伝導性の変化を測定した。

 実験結果から、x=0.06の薄膜結晶は、14Kの温度環境で、磁場が100テスラを超えると透過強度が減少し、500テスラで金属状態に変化することが分かった。x=0.036の薄膜結晶は、磁場が200テスラを超えると金属化の兆候が見られた。Wを添加していない(x=0)薄膜結晶だと、磁場540テスラまで絶縁性は維持されることが明らかとなった。完全な金属化には、xが0.036の場合は約600テスラ、添加しない場合には1000テスラ以上が必要になる可能性があるという。

左はV1-xWxO2(x=0.06)薄膜(膜厚15nm、TiO2基板)のレーザー波長1.977μmによる光透過強度の磁場依存性、右はV1-xWxO2(x=0、0.036、0.06)薄膜における、吸収係数αの相対変化量の磁場依存性 (クリックで拡大) 出典:東京大学、岡山大学

 スピン制御による金属化の発見について研究グループは、「VO2における電子の局在化が、バナジウム原子間の分子軌道形成によって起こることを強く示唆している」とみている。スピンが平行に制御されると分子軌道の結合性軌道が不安定となり、ダイマー化していたバナジウム原子がそれぞれ独立した状態に変化する。そして、分子軌道結合に寄与していた電子が自由に移動できるようになり、金属化が起こるという。

磁場誘起金属化のメカニズムを模した図 出典:東京大学、岡山大学

 VO2と性質が似た強相関物質として、Ti2O3やAlV2O4、CuIr2S4なども発見されている。研究グループは今回の成果について、スピン制御スイッチング素子やモット転移FETなどの室温動作量子機能デバイスの開発に貢献するとみている。

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