YoleのMounier氏は、「パンデミックは単体で世界経済に打撃を与えているわけではない。他のさまざまな要因が連続して発生したために、雪玉効果をもたらしているのだ」と指摘する。
複数の要因がほぼ同時に発生したために、世界経済の崩壊の引き金となった。2018年1月に米中間の貿易戦争がぼっ発し、2020年第1四半期にはロシアとサウジアラビアによる石油ショックが発生。また2020年1月以降、世界各国で全面的または部分的なロックダウン(都市封鎖)が行われるようになる。そして世界は2020年第2四半期に、歴史的な不況に突入していく。
Yoleは、この景気後退は今後さらに悪化する可能性があると警告する。米中貿易摩擦は激化の一途をたどり、“経済的な冷戦”へと突入し得る状況だ。経済および金融危機は、間違いなく2021年、2022年まで続くだろう。世界中でサプライチェーンの見直しが図られることになりそうだ。
COVID-19によるパンデミックは、エレクトロニクス業界の数多くのステークホルダーの間に大きな不安をもたらしている。当初(2020年1月)の時点では、業界のプレイヤーは主要な原材料、パーツ、コンポーネントの供給への短期的な影響に焦点を当てていた。だが、懸念は徐々に大きくなっていき、必須の材料やコンポーネントの主要な(一部のケースでは唯一の)供給元である中国に対して、長期的に依存してもよいのかという疑問を持ち始めるに至った。
最新の動向として、サプライチェーンのさらなる地域化、現地化が起こりつつある。それは、政治的もしくは経済的な混乱、気候変動、より感染力の強い伝染病などによって、材料やコンポーネントの入手が脆弱にならないようにするための策である。
同時に、今回のパンデミックによって米国では「自国で製造する」ことへの関心が高まっている。これは、COVID-19以前や、中国との貿易摩擦が激化する前にはほとんど無関心だったトピックだ。だが現在は、米国の政治家、官僚、ロビイストにとって重要な議題となり、「CHIPS for America Act」のような法案が提出されている。
そうした意識が、米国の半導体製造を復活させる実際の行動に結び付くかどうかは全く分からない。だが、少なくとも「種はまかれている」と言えよう。
世界経済の中で最も大きな打撃を受けたセグメントの一つが、自動車業界である。
コロナ禍の経済は、既に自動車業界に多大なマイナス影響をもたらしている。今後もさらなる変化が起こるとみられ、同業界は大きな不安を抱えている。過去数カ月間でわれわれが学んだことから、将来起こり得る可能性が幾つか見えてくる。
自動車業界のアナリストであるEgil Juliussen氏は、「世界の自動車売上高は、坂道を転がるように激減しており、今後5年にわたり、あるいは地域によってはそれよりも長い期間、近年の水準を大きく下回る状況が続くだろう」との見解を示している。2020年4月30日にIHS Markitが発表したプレスリリースによると、2019年の自動車販売台数は8940万台だった。これに対し、Juliussen氏は、2020年の同台数が前年比22%減の6960万台に落ち込み、前年比で過去最大の下落となると予測した。
Juliussen氏は、自動車の販売台数と売上高が落ち込むことで、自動車開発の研究開発資金も大幅に削減されると予測している。その結果、まだ破綻には至っていない自動車技術関連の新興企業が主要な自動車メーカーに拾い上げられるケースが増えるという。
自動車メーカーは伝統的に、従来の競合先と協業するよりも“我が道を行く”ことを選ぶことが(良くも悪くも)多い。その自動車メーカーが、技術企業や競合メーカーとのより密接なパートナーシップへ向けて少しずつ前進することもあり得る。
完全な自動運転車の実現に向けた夢はついえていないものの、多くの自動運転開発プロジェクトでは遅れが発生している。一方で自動車メーカー各社は、自動運転よりもADASの強化や、EV(電気自動車)開発を優先している向きもある。いずれにしても、自動車市場が完全に回復するには、数年はかかるとみられている。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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