YoleのエコノミストAssogba氏は、「エレクトロニクス業界だけでなく、さまざまな業界のエコノミストたちが、市場が現在の不況からどのように回復していくのかを必死に予想しようとしている。コロナ禍の不況から回復への道筋を、V字型やU字型、W字型、L字型などで説明するエコノミストたちもいるが、1つだけ明らかになった結論は、『どうなるのかは誰にも分からない』ということだ」と述べている。
Assogba氏は、「これほどまでに予測が難しいのは、恐らく世界がこれまで、『需要ショック』と『供給ショック』の二重苦を同時に経験したことがないからだろう」と説明する。
同氏は、「今回、経済の中で供給ショックと需要ショックが同時に発生したために、従来の供給/需要曲線が動いている。こうして均衡が移動したことにより、全ての世界市場が未知の領域に突入せざるを得なくなったのだ」と指摘する。
「2008年の世界的金融危機の経験をベースとして、今回の新型コロナウイルスの影響による景気後退予測についてモデリングを行うと、誤解を招く恐れがある。2008年当時の不況は、供給の変化がほとんどなく、需要ショックが引き金となって発生したためだ」(同氏)
通常時の市場では、消費者余剰と生産者余剰との間のバランスが認識されている。消費者余剰とは、“消費者が実際に支払う価格と、消費者が支払っても良いと思う価格との差”である。供給/需要曲線上では、均衡価格と需要曲線との間の領域を指す。
生産者余剰は、“企業が実際に受け取る価格と、企業が理想とする販売価格との差”である。Asogba氏が説明しているように、供給/需要曲線上では、均衡価格と供給曲線との間の領域を指す。
こうした説明に関しては、経済学入門の授業で学ぶ内容ではないだろうか。
しかしAssogba氏は、「現在の市場状況では、このようなよく知られた需要/供給均衡モデルが変化してしまっている。コロナ禍の不況では、生産者が、数が大幅に少ない製品を、比較的高い価格で販売する。その一方で消費者は、かなり数が少ない製品に対して、より高い金額を支払って購入するため、大きな損害を受けることになる」と指摘する。
エコノミストたちは、「需要ショックと供給ショックが同時に発生した場合にどう対応すべきなのか、ほとんど何も分からない」ということを認めている。
Yoleは、IMF(国際通貨基金)の生データに基づき、世界GDP(国内総生産)成長と主要経済大国の調査を行うことにより、下表を作成している。これを見ると、1つの国だけでなく世界全体で、明らかに景気後退が差し迫っていることが分かる。主要経済大国の中でも中国は、あまり影響を受けていないように見えるが、GDP世界第2位の同国も、やはり不況へと突入している。
Assogba氏は、「2020年の経済成長は恐らく、過去10年間で最悪の年になるだろう。この表では、2008年の金融危機までさかのぼっているが、もし50年前のデータまでさかのぼったとしても、現在のような需要/供給ショックが同時に発生するような事態が起こった年はない」と述べている。
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