またAAAは、ADASの解除についても危険性を指摘する。ADAS自動車は、例えば人間のドライバーがあまり注意を払っていない時や、システムに頼りきってしまっている状態の時などに、突然ドライバーに運転を差し戻す場合がある。
AAAのオートモーティブエンジニアリング/インダストリーリレーションズ 担当ディレクターを務めるGreg Brannon氏は、報道向け発表資料の中で、「われわれは、ADASが特に現実世界のシナリオにおいて、一貫性のある性能を提供できていないという状況を何度も確認している。メーカー各社は、車線維持支援を向上させたり、より適切な警告を発せられるようにするなど、もっと信頼性のある技術の実現に向けて取り組んでいく必要がある」と述べている。
AAAがレポートを発表した後、ほとんどの自動車メーカーが同じような内容のレポートを提示したというのも驚くようなことではないだろう。いずれも、なぜ自社のADAS機能が信頼性に欠けているのかという点について具体的に議論するのではなく、「ADAS自動車は、ドライバーをサポートするための技術であり、ドライバーに代わって運転するために開発したのではない」と主張している。もし、これらのメーカーの自動車が道路上で危険に遭遇して、それに対応できなかった場合、その責任は、常時運転に携わっていなかったドライバーに課されることになる。
つまり、既に譲れない一線が示されているということだ。VSI Labsの設立者であるPhil Magney氏は以前に、EE Timesのインタビューで以下のように語っている。
「自動運転車には、監視下にあるものと監視下にないものの2種類がある。レベル3未満の自動車は全て、監視下に置かれているため、その走行の安全性に関する全責任をドライバーが負うものとされている。つまりドライバーは、現在起こっていることに対して細心の注意を払い、必要に応じて介入しなければならないということだ」
同氏の見解は正しい。
例えば、もし自動運転車のADAS機能が不安定で、道路脇に停車している自動車に衝突した場合、その責任はドライバーにある。もし、ドライバーが運転席で十分に注意を払っていた場合は、自動車の最適以下のADAS性能に対する補償を受けられる可能性がある。
公平なのか不公平なのか、停車中の車とゴミ袋を見分けることができないような、結局のところそれほど高性能ではないADASを開発した自動車メーカーは、責任を免れることになるのだ。
しかし、このようなADAS性能の変動性は、最終的に自動車メーカーに悪い結果をもたらす可能性がある。現在、ADASの名を標準化するためにさまざまな取り組みが進められているが(これは良いことである)、ADAS機能が一定の性能レベルに達しなければ、消費者はADAS機能に対し、その名前に関係なく何を期待すればよいのか分からず、混乱してしまう恐れがある。
全ての自動車メーカーが、ADAS機能開発において高水準の仕様に準拠するために使用することができるベンチマークシステムは、存在するのだろうか。
Magney氏は、「今のところ、そのようなシステムはなく、自動運転向けに定義されたベンチマークを用意している試験機関は一つも存在しない。試験機関は、ADAS機能の試験向けとして最適な優れたプロトコルを持っているが、自動運転車性能に関しては、まだ研究対象外としている」と述べる。
同氏は、「まだそれ以上のことが何もなされていないという現状には少し驚いているが、それは、『何が安全で、何が安全でないのか』ということについて、誰も同意できていないからではないだろうか」と付け加えた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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