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迷走する米中対立、“落とし所なし”の泥沼化OMDIAアナリスト座談会(2/5 ページ)

» 2020年08月17日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

Huaweiの“逃げ道”はあるのか

EETJ 今回の輸出管理規制の改正では、米国製のEDAツールを使わせない、つまりIC設計をさせなくするともいわれていますね。

南川氏 あとは製造装置関連にも影響があるでしょうね。ただ、全て輸出できなくしてしまうと米国メーカーも“商売あがったり”ですから、最先端だけが使えなくなるのだと思います。

杉山和弘氏

杉山氏 輸出規制の対象と範囲を広げると、中国だけでなく米国自身も苦しむことになりますからね。当然、米国はHuawei以外の中国企業ともビジネスをしているわけですから、もろ刃の剣になります。エンドマーケットとしての中国はやはり巨大ですから、規制と利益のバランスをどう取るかが鍵になります。

前納氏 ポイントはTSMCが握っていると思います。米中のはざまにいるTSMCと、あとはSamsung Electronics(以下、Samsung)もどうするのかは、注視する必要があります。

EETJ TSMCは、Huaweiからの受注はもう受けていないので、プロセス技術だけを考えれば、Huawei(HiSilicon)のチップを製造できるのは、あとはもうSamsungしかないという話ですよね。

南川氏 長期的にはSMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)を育てる考えですが、短期的にはSamsungの協力を得たいと中国は考えているでしょう。しかし、HiSiliconのチップはどのファウンドリーでも製造してもらえない可能性がありますから、短期的にはMediaTekなどのチップを購入することになります。長期的にはHiSilicon以外のファブレス企業を育てることで、中国での設計・製造はあきらめないでしょう。

TSMCの「7nm+ EUV」を用いたHuaweiの5G SoC(System on Chip)「Kirin 990 5G」

EETJ SMICの最先端プロセスは14nmですから、少なくとも今の段階で最先端のチップはムリですね。

前納氏 EDAや製造装置の話をする前の段階として、「結局、受け皿(製造委託先)ってあるんだっけ」となった時に、フロントの設計だけするのかどうか、ということですよね。それはちょっと難しい。

杉山氏 MediaTekやSamsungのチップを採用する方法しかないのではないでしょうか。他社に設計してもらったものを使う。

南川氏 Huaweiというか、HiSiliconとSamsungでチップを共同開発するというのもダメだよね。

杉山氏 それだと今回の規制に引っ掛かりますね。

前納氏 米国は、Huaweiと相当な数のHuawei関連会社をエンティティリストに追加したそうですから、たとえHuaweiの関連会社が社名を変えてビジネスを行おうとしても、すぐに見破られてしまうでしょうし。米国はかなり本気で“Huaweiたたき”を行ってきましたが、引っ込みがつかなくなったという側面もあるかもしれません。

 一方で米国は中国への締め付けを厳しくするだけでなく、製造業や半導体産業への投資も増やしています。攻防ともに積極的になっており、対立構造は深刻になっていると感じます。

杉山氏 米国は、半導体の売上高のシェアは45%くらいありますが、半導体製造のシェアでは12%くらいですから、製造を強化する必要性は感じていると思います。IC製造業の支援策として「CHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors) for America」という法案も、超党派議員によって2020年6月に提出されましたね。それに続いて、「American Foundries Act of 2020 (AFA)」や「Economic Prosperity Network(経済繁栄ネットワーク)/EPN」など、製造業を支援するための構想を次々と打ち出しています。EPNは、サプライチェーンで脱中国を図るための構想で、日本や韓国も参加するように要請しています。

前納氏 日本はそうした取り組みをうまく利用するのも一つの手段だと思いますね。

杉山氏 TSMCのアリゾナ工場建設は、皆さんどう見てます? 2020年5月に発表したのに、着工は2021年、生産開始は2024年ですよね。発表と、着工や生産開始まで随分間があるような気がするんですが。もし米国で政権が交代したら、アリゾナ工場建設の話が立ち消えになる可能性があるのでは……と、個人的にはちょっと懸念しています。

台湾・台南市にあるTSMCの8インチウエハー製造拠点「Fab 6」 画像:TSMC

前納氏 発表では5nmプロセスの工場という話でしたが、もしかしたらさらに最先端かもしれない。コロナの影響による遅れもあるかもしれないし、稼働開始が2024年というのは妥当かなという気はします。あるいは、ひとまず工場建設を発表することで、“TSMCは米国にとって敵ではないですよ”という立ち位置を示したかったのかもしれません。

南川氏 香港が事実上の一国二制度崩壊となり、次は台湾を狙いにくる、という脅威もあるでしょう。台湾のファウンドリーを使えなくなるのは米国にとっての大きなリスクですね。

前納氏 ソフトウェアメーカーと違って、TSMCのように、ハードウェアを手掛けていて地場に工場を持っている企業だと逃げられないですからね。

南川氏 それは米国が一番恐れているシナリオですよね。だから米国も2019年あたりから台湾との距離を縮めている。

杉山氏 中国のターゲットが台湾なのは間違いないと思います。

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