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迷走する米中対立、“落とし所なし”の泥沼化OMDIAアナリスト座談会(3/5 ページ)

» 2020年08月17日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]

米中デカップリングは、日本のチャンスなのか

EETJ 皆さんのクライアント各社は、米中対立についてどのような見方をされていますか?

杉山氏 基本的に、米中のデカップリング(切り離し)は日本に勝機をもたらすと考えています。中国側は、米国の部品や装置を購入できないとなると、日本や欧米から調達するしかない。デカップリングが続くほど、日本にとってはチャンスではないかと思っています。

南川氏 ただ、まあ日本政府の米国政府に対する“忖度”にもよるかもしれないですけどね。日本企業は米国企業同様、最先端と軍需目的の商売は控えて、それ以外は積極的にビジネスを拡大するというスタンスを明確に持つべきでしょう。

李根秀氏

李根秀氏 ソニーは、CMOSイメージセンサー関連で中国メーカーの顧客が増えていますから、仮に中国への輸出に対して規制がかかる話になった場合、ビジネスチャンスを失う可能性もありそうです。スマートフォンの販売台数ランキングでも、トップ5社のうち3社は中国メーカーです。何の影響も受けないところはない、と考えた方がいいのではないでしょうか。

 長期的に見れば、中国は工場を立ち上げて、自国での生産を目指しています。ただ、これも国の目標よりも遅いペースでしかできないとか、装置を購入できずに工場を拡張できないといった問題が発生します。SamsungやOmniVisionなどがそのすきをついて中国市場に攻勢をかけるとなると、ソニーにとっては不利になるかもしれません。

前納氏 米中摩擦で、半導体や製造装置も含めて制限が出てくると、世界のサプライチェーンが変わらざるを得ない。PCやスマートフォンなどの最終製品が消費される場所は、それほど大きく変わるとは思いませんが、製造に至るまでのサプライチェーンがどう変化するのかに対して不安感を抱いている方が多いですね。先ほどのCMOSイメージセンサーの話で、中長期的にはソニーに代わる企業が出てくる可能性も否定できないのと同じように、他の半導体分野でも似たようなこと、つまり、米中対立のはざまで右往左往している間に、取って代わられる日本企業も出てくるかもしれません。

杉山氏 短中期的には日本にチャンスをもたらしても、長期的には中国の国内生産を加速する結果になりそうです。

EETJ 米中で対立しつつ、米国も中国も自国への投資は怠らず、開発を加速させていきそうですよね。そうなると、日本はどうすればいいのか……と思ってしまいます。

杉山氏 米中対立が深まる中でもきちんとビジネスを続けていけるスキームを自分たちで見つけていかないと。

南川氏 エンドマーケットとしては、米国も中国も大きいですからね。さまざまな企業に聞くと、「最先端のところは(中国と)取引できないけれども、それ以外は従来通りにビジネスをしていく」というスタンスを取るところが増えている印象を受けます。米国ですら、中国を完全に切るのは無理ですから。最先端と、それ以外とで割り切ってビジネスを続けていくしかないのかなと思います。

前納秀樹氏

前納氏 一方で、最先端ではない技術力については、日本としてもきちんと追いかけていく必要があります。ただ、それをどこでやるのか。それなりに新しい技術を持ったところとやらないといけないと思うので、それが中国系なのか台湾系なのか、あるいは米国系なのか――。そこを見極めて、テクノロジーをキャッチアップする戦略を日本として持たないと。

南川氏 パワー半導体は危ういと思いますよ。中国は非常に力を入れ始めていますから。のんびりしていると、すぐに追い付かれてしまう。

前納氏 日本は消費地ではないので、モノを作りながら技術力を磨けるところを見つけないと、このままジリ貧になっていくのではないかと懸念しています。

南川氏 最先端の半導体工場を作るのは無理でも、R&Dの拠点を置くという手はありますよね。日本には優れた材料メーカー、装置メーカーがたくさんあるので、R&Dの拠点を置いてもらうという手段はアリなのでは。

前納氏 そこで技術者を育てるのは必要ですよね。

南川氏 工場の建設はさすがに無理でも、R&Dの拠点として、例えばTSMCのような企業を誘致できれば、日本のメーカーと共同開発を行うことで、少なくとも(日本は)技術力を磨くことは可能です。

杉山氏 そういうところを早めに判断して投資する必要がありますね。

前納氏 しかも、今までみたいに中途半端な額じゃなくて、もっとドカーンと投資しないと……。

南川氏 いやあ、お金ないよね(笑)

大庭氏 税金が高い国でも、研究開発費用の税控除を増やす取り組みを始めていますね。例えばドイツは既に2019年末に始めていますし、米国でもここ数年で行っています。日本も(企業の負担を減らすための取り組みを)した方がいいのではないかと思います。

Samsungの立ち位置

EETJ 韓国も難しい立場にいると思いますが、いかがでしょう。

南川氏 今は少し中国寄りですよね。米国ににらまれても、その立場を維持あるいは加速していくのか――。Samsungなんかは考えているさなかなのかもしれません。

李氏 韓国では、今の政権と韓国企業の考え方が乖離している気がします。

前納氏 HuaweiがSamsungに近寄ろうとしていますが、Samsungはどう考えているんでしょうね。米中どちらに行くのか。

南川氏 Samsungにとっては、米中どちらも巨大な市場ですからね。両方捨てられないというのが本音なのでは。どちらかに偏るというのは、なさそうな気もします。Samsungは、圧倒的な技術格差を実現する、というのが会社としてのスタンスなわけです。2020年4月に6億画素のCMOSイメージセンサーを開発する計画を発表しましたが、そのように、圧倒的な技術力をもって他との差別化を図ろうとする会社ですよね。

前納氏 一方でかつての日本がそうだったように、中国に技術が流出するという心配はないんですかね。

南川氏 そこはかなり気を付けてるみたいですね。中国に派遣した優秀なエンジニアが現地で引き抜かれてしまうといったことがあったことから、今はもう、かなり優秀なエンジニアは自国に置いておくと聞いたことがあります。

李氏 韓国、というか日本以外の国では、エンジニアを介しての技術漏えいに対して、かなり対策していますよね。“エンジニアは国家の宝”という意識を持っていますから。日本だけじゃないですか?こんなにも緩いのは……。

前納氏 ここまでの話を聞くと、Samsungは、日本の企業よりは、うまく米中と渡り合っていけそうな印象受けます。

南川氏 圧倒的に強い技術を持っていれば、どこの国ともやっていけるということですよね。

前納氏 要は、日本にもそういう技術を(材料や装置など現在強い分野以外でも)作らないといけないということですね。

EETJ ……できる……かな……。

杉山氏 投資してこなかったツケが回ってきたのかなという気もします。

前納氏 半導体に限らず、何らかはやらないといけないですよね、でも。

南川氏 エンジニアも少ないですからね。まずそこから手を付けないと。一から育てるとなると時間がかかり過ぎるから、もう海外から来てもらうしかないと思いますね。

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