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迷走する米中対立、“落とし所なし”の泥沼化OMDIAアナリスト座談会(5/5 ページ)

» 2020年08月17日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
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EV開発が加速

南川氏 自動車分野のアナリストから聞いたのですが、EV(電気自動車)化が随分進み始めているようです。販売台数はもちろん減ったし、市場が完全に回復するのは時間がかかりますが、EVのクリーンさが再び注目され始めたようですね。

 コロナで世界中の人々の移動や経済活動が止まった中で、大気汚染がなくなったとか運河がきれいになったとか、環境の改善がいろいろあります。どうやら、それがきっかけになったようです。ドイツの自動車メーカー各社が、自分たちがやってきたことは、やはり大気汚染にかなり加担していると再認識した。それで、本気でEV化に取り組まなければと、決意を新たにしたんですね。

杉山氏 EV用バッテリーも、これまでは中国や韓国から輸入していたものを、今回はきちんと投資して自国(ドイツ)で生産しようとしているみたいですからね。

南川氏 自動運転の開発も加速するんですかね。みんなどう思う?

李氏 2019年までは、BMWやAudiを中心に2024年のモデルからレベル3の適用を開始するといわれていました。カメラもそれに向けて開発を進めていますし、特に8Mピクセル以上のカメラを搭載することになっていますので、デバイスの開発は相当進んでいます。ただ、開発のスピードはコロナの影響で全体的にスローダウンしているのではないでしょうか。

大庭氏 通信面でいうと、V2X(Vehicle to everything)の規格を決める3GPPのリリース16、リリース17の発行が遅れる可能性があります。機器開発のロードマップの面では大きな問題にはならないレベルではあると思いますが。通信の標準化団体は、やはり集まって議論して決定するプロセスを取っているので、集まれない今は、話を進めるのが厳しいのだと思います。

前納氏 自動車関連のR&Dについては、コロナで市場が冷え込んだこともあって投資が失速しそうですね。ただ、コロナを考えると実は自動運転が一番いいのではないかという気もしています。

杉山氏 それもあって中国は自動運転の開発でアクセルを踏んでいるんですよね。このままだと、中国メーカーと米国のTeslaくらいしか、自動運転で革新的なことはできないのではないでしょうか。ドイツの自動車メーカーもそこに危機感を覚えて、EVや自動運転の開発に本腰を入れ始めているのだと思います。

 Teslaのすごいところは、これまでドイツや日本の伝統的な自動車メーカーが100年かけて市場で築いてきたものを、EVの開発によってわずか3〜4年で同じところまで上りつめ、おまけに新しいビジネスモデルも作り出してしまった点です。まずハード、つまりクルマを販売し、車載ソフトウェアを追加したりアップデートしたりすることで、新しい機能を追加していくというビジネスモデルです。スマートフォンのように、アプリケーションで稼ぐ仕組みをクルマで作り出しました。日本や欧州の自動車メーカーも、そんな風に変わっていかなければならないと感じます。中国は、いち早くそれをやっているみたいですから。

前納氏 中国は共産主義という国の体質上、“右向け右”で開発の方向性をそろえられるところも大きいですけどね。

杉山氏 話をHuaweiに戻しますが、Huaweiが10年でここまで成長したのは、ずっと投資の手を緩めずにやってきたからですよね。北欧の競合が10年間ずっとR&Dの金額が変わらない中、Huaweiだけは右肩上がりで増やしている。そんなことができるのは、国営だからですよね。売り上げの18〜20%くらいをR&Dに投じていて、開発エンジニアの数も多い。

大庭氏 1つのセクションに占めるエンジニアの比率が圧倒的に高いんですよね。日本だと100人いるかいないかのところで、中国だと1000人くらいいると聞いたことがあります。

杉山氏 Huaweiは2019年末に、日本からの部品調達金額が(2019年通年で)1.1兆円に達すると発表していましたね。あの資金力は脅威ですよ。

米中対立もコロナも収束は見えず

EETJ コロナもですが、米中対立もやはり当面続きそうですね。

南川氏 そうですね、まだ続くと思います。これはもう米国国防上の問題となっているため、米国は政権が変わっても対中国スタンスは変わらないはずです。

杉山氏 落としどころが分からないですよね。5Gのパテントなのか、何なのか。何が有効策なのかが分かりません。

前納氏 日本としては、ビジネス面では中国とうまく付き合いつつ、テクノロジー面では、先ほど南川さんが言っていたようにR&Dの拠点を誘致するなど米国寄りでキャッチアップして、両天びんをかけながら、存在できる立ち位置や道筋を見つけるということを早急にやらなければならないと思います。

南川氏 基本は海外でのビジネスですよね。外の市場を取りに行かないと。半導体製造装置メーカーのように、きちんと海外市場を取りに行っている分野もありますが、他のエレクトロニクスについては、まだあまりにも国内寄りだと思います。例えば、今まさに市場が立ち上がろうとしているインドなんかは、日本がいち早く進出するべきではないでしょうか。


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