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パワーエレクトロニクス最前線 特集

25年にトップシェアへ、SiC市場をリードする“後発・ローム”ローム パワーデバイス事業統括 伊野和英氏(2/2 ページ)

» 2020年08月26日 09時30分 公開
[永山準EE Times Japan]
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SiCウエハーは競合にも供給、市場自体の拡大を進めるローム

――2025年までに合計600億円の投資、生産能力を17倍に向上させる投資計画、その進捗は。

伊野氏 研究開発と同時に、市場が急速に立ち上がった場合でも十分供給できるよう、需要に先んじた設備投資を進めている。直近の市況に左右されずこの2年も計画通り投資を行っており、2020年12月には福岡県の筑後工場に新棟が竣工する。ここには2021年から装置を設置し、予定通り立ち上げていく。

 600億円の内訳は宮崎工場で新しく立ち上げた6インチSiCウエハーのラインおよびSiCrystalの能力増強も含めた額で、2021年度までに予定している部分(累計400億円)は同様に計画通り進めている。その後の投資は市況を見ながらの判断という形になるだろう。この投資によってSiCの生産能力は現在のところ2017年比で3倍程度にまで増強されている。なお、筑後工場の新棟では8インチの製造装置を投入する。当初は6インチで量産を開始するが、市況に応じていつでも8インチでの量産に切り替えられるよう準備している。

 SiCウエハーに関しては、われわれは傘下にSiCrystalを有しており供給体制に問題はない。2020年1月にはSTマイクロエレクトロニクスに対して数年にわたりSiC(炭化ケイ素)ウエハーを供給する契約を結んだ。われわれはもともとSiCウエハーに関し、競争というよりデバイスの競合を含め広く供給し生産量を増やすことでSiC市場自体を拡大してコストを下げていく、ということを第一に考えている。SiC市場シェア30%という目標は、それくらい数量を作っていかなければコスト競争が維持できないことを踏まえたうえでの設定でもある。

Siデバイスは「SiCによって築いた海外販路で拡大」

――Siパワー半導体について、現在のロームの立ち位置と製品展開の方針は。

伊野氏 ロームのパワーデバイスの売り上げではSiCの占める比率はまだ低く、売り上げの柱はSiのパワーデバイスだ。ロームはもともと小信号トランジスタ/ダイオードにおいては世界トップレベルのシェアを誇っており、パワーデバイスにおいても低電力、低電圧領域では当初からコスト競争力があった。そこからより高い電圧、大電力の領域を拡充し、後発として競合他社にキャッチアップしていくというスタンスで取り組んでいる。

 SiのMOSFETだけでも8000億〜9000億円の市場規模があるといわれており、そこで一定の地位を築くことは重要だ。第6世代のSi MOSFET(40V、60V、100V)などを新たに出すように、競合他社の製品と同等や+αの性能を持った製品を出しながらシェアを拡大する。SiCデバイスは当初からグローバルで展開しており海外売り上げ比率が非常に高いが、Siはロームの既存ビジネス同様、日本国内比率が高く、海外比率を上げていくのがテーマとなっている。また、現在車載比率が高いが、産機領域での拡大も図っていく。

 これまでSiCデバイスによって築いた海外販路を使ってIGBTの海外売り上げも拡大してきたが、今後はそのチャンネルにSi MOSFETも乗せていく。海外比率拡大では、ロームが強みを持つLSI(電源ICやモータドライバIC)とパワーデバイスの1パッケージ化によって差別化することも重要と考えている。既に600V/250V耐圧のMOSFETと制御IC、駆動ICを1パッケージ化したIPMやIGBT内蔵IPMなど(SiCでも1700V耐圧のSiC-MOSFETとAC-DC向け電源ICを1パッケージ化した製品などがある)を提供してきたが、他社と差別化するため今後さらに拡充していかなければならないと考えている。

 またIGBTは車載であればPTCヒーターや電動コンプレッサーなど新たな市場がさまざま立ち上がってきており、SiCがお呼びではない領域がある。われわれは後発だからこそ、そうした変化が大きい市場に参入しやすいと考えている。

――最後に、GaNデバイスの開発状況を聞かせてください。

伊野氏 GaN(窒化ガリウム)は耐圧100〜600V近辺の領域で有望と考えている。開発を進めているのはGaN on Siデバイスであり、HEMT(高電子移動度トランジスタ)構造のため高電圧、大電力化は難しい。用途としては耐圧600VならPCや携帯電話用のAC-DCアダプター、あるいは車載のオンボードチャージャーの領域で可能性がある。耐圧100Vならば48Vのサーバや車載の電源領域で期待できる。ロームとしては現在商品化のメドは公表はしていないが、例えば「3年後に商品化」という選択肢はない。そこまで先の話になるならロームとしてはGaNビジネスはやらないという判断になるだろう。

 GaNは高周波で動かすことで初めてメリットが出てくる性質のものであり、デバイスの駆動が重要になってくる。ロームはGaN駆動のためのドライバについても開発を進めており、LSIのドライバとGaNのペアで出すことで、GaNデバイスのみを開発する競合との差別化を図っていく。

 GaNは、パワーデバイスの市場全体ではSiCと比べかなり限られた領域となるが、民生に近い領域なので市場はそれなりに大きいとみている。SiCよりは小さいだろうが金額規模もある程度行くかもしれない。また、SiCと異なりコスト面でSiに近い領域を狙える素材であり、非常に可能性あるデバイスと考えている。

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