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Al系材料を高品質に成膜できるHVPE装置を開発III-V族化合物太陽電池を低コストに

産業技術総合研究所(産総研)は、高効率のIII-V族化合物太陽電池を高速かつ低コストで作製するためのHVPE(ハイドライド気相成長)装置を、大陽日酸と共同で開発した。HVPE法を用いると、アルミニウム系材料の成膜を高品質で行うことが可能となる。

» 2020年10月19日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

発電効率35%以上、1W当たりの発電コスト200円を目指す

 産業技術総合研究所(産総研)の菅谷武芳研究チーム長らは2020年10月、高効率のIII-V族化合物太陽電池を高速かつ低コストで作製するためのHVPE(ハイドライド気相成長)装置を、大陽日酸と共同で開発したと発表した。HVPE法を用いると、アルミニウム(Al)系材料の成膜を高品質で行うことが可能となる。

 ガリウム(Ga)やインジウム(In)、Alあるいはリン(P)、ヒ素(As)などIII-V族化合物材料を用いた太陽電池は、バンドギャップの異なる材料を積層させた多接合構造にすることで、太陽光の利用波長域を拡張でき、高い発電効率が得られる。ただ、現状では高い製造コストがネックとなっていた。HVPE法は、従来の有機金属気相成長法に比べ、安価な原料で高速に成膜ができるため、コストダウンを可能にする製造技術として注目されている。

 産総研はこれまで、大陽日酸と共同で水平置き縦型HVPE装置を開発し、高速の成膜を実証してきた。しかし、実用化に向けては、InGaP太陽電池セルの高性能化や、高価な基板を用いることなどが課題となっていた。

 そこで今回、Al系材料の高品質成膜を可能にするHVPE装置の開発に取り組んだ。新規に開発した装置は、石英反応炉内部でAl原料を500℃という低温で加熱することができる。これにより、石英反応炉と反応しにくいAlCl3(三塩化アルミニウム)を内部で生成し、供給したことで不純物の取り込みを抑制、AlInGaP層やAlAs層の高品質な成膜を可能にしたという。AlInGaPを導入したInGaP太陽電池は、表面近傍の電流損失が抑制され、発電効率を高めることに成功した。

上図は開発したHVPE装置の外観写真と模式図、下図はAlInGaPやAlAs成膜室の模式図 出典:産総研
左はAlとHClガスの反応温度および、AlClとAlCl3の生成比率の関係、右はHVPE法によるAlInGaP層を導入したInGaPセルの電流−電圧特性 出典:産総研

 III-V族化合物太陽電池は、HVPE法を用いることで太陽電池の成膜コストを抑えることができる。ところが、作製時に高価な基板を用いる必要があり、これが高コスト要因の1つとなっていた。開発した装置は、AlAsの成膜が可能である。このため、基板と太陽電池層の間にAlAs層を形成し、その後フッ化水素酸を用いてAlAs層だけを除去すれば、基板と太陽電池層を剥がすことができる。剥がした基板は再利用することが可能なため、大幅なコスト節減につながるという。

AlAs層を除去してGaAs基板と薄膜GaAsセルを剥がすイメージ 出典:産総研

 基板を取り除いた太陽電池層は薄膜となり、産総研が開発した半導体接合技術「スマートスタック」を活用し、異種材料と接合して発電効率を向上させることができる。今回の実験ではGaAsセルを用いたが、InGaPセルや多接合構造でも同様に剥がしたり接合したりすることが可能だという。

開発したGaAsセルをInGaAsセルに接合したときの電流−電圧特性 出典:産総研

 研究グループはこれまで、2インチの基板を用いHVPE法の研究を行ってきた。今後は量産ラインを見据えて6インチサイズの成膜が可能なHVPE装置を開発していく計画である。さらに、開発したHVPE装置で製造したIII-V族化合物太陽電池を、シリコンやCIGS(銅、インジウム、ガリウム、セレンからなる多元系化合物半導体)など安価な太陽電池と接合させる。これによって発電効率が35%以上で、1W当たりの発電コストが200円という太陽電池の実用化を目指す。

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