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NIMSら、「磁気トムソン効果」の直接観測に成功磁場の印加で吸発熱が大幅増加

物質・材料研究機構(NIMS)は、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、「磁気トムソン効果」を直接観測することに成功した。

» 2020年09月04日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

ロックインサーモグラフィー法で熱計測

 物質・材料研究機構(NIMS)は2020年9月、産業技術総合研究所(産総研)と共同で、「磁気トムソン効果」を直接観測することに成功したと発表した。ロックインサーモグラフィー法と呼ばれる熱計測技術を用いた。

 トムソン効果は、ゼーベック効果やペルチェ効果と同様に、温度差のある導電体に電流を流すと発熱や吸熱を生じる現象で、金属や半導体における基本的な熱電効果の1つ。ただ、トムソン効果が磁場に依存して変化する「磁気トムソン効果」については測定が難しく、これまで明らかにされてこなかったという。

左はトムソン効果、右は磁気トムソン効果の概念図 出典:NIMS
熱や電気、磁気の相互作用がもたらす熱電効果の代表例 出典:NIMS

 研究グループは今回、試料としてBiSb(ビスマス・アンチモン)合金を用い、磁気トムソン効果の観測を行った。BiSb合金は、ゼーベック効果が磁場に強く依存するといわれているからだ。

 具体的には、棒状に加工したBiSb合金の中心部にヒーターを取り付け、「正の温度勾配」と「負の温度勾配」の特性を持つ2つの領域を設けた。この試料に外部磁場を与えながら電流を流し、その時の温度変化を観察した。ただ、従来のサーモグラフィー法では、トムソン効果に由来する温度変化と、それとは別の熱電効果に由来する信号を分離して測定することができなかったという。

 実験では、ロックインサーモグラフィー法と呼ばれる熱イメージング技術を用いた。BiSb合金に対し、周期的に変化する電流を試料に印加しながら、表面の温度分布を赤外線カメラで測定。その上で、フーリエ解析により電流と同じ周波数で時間変化する温度変化だけを選択的に抽出し、熱電効果に由来した信号のみを可視化する。

 これらの手法を用い、BiSb合金試料に生じる温度変化が、磁場の印加でどのように変化するのかを測定した。実験結果から、磁気トムソン効果は0.9Tの磁場を印加することによって、トムソン効果による温度変化に比べ90%以上も増強されることが分かった。

トムソン効果および磁気トムソン効果の概念図 (クリックで拡大) 出典:NIMS

 研究グループによれば、磁気トムソン効果がゼーベック効果やペルチェ効果といった従来の熱電効果に匹敵する大きな出力を示すことから、新たな熱エネルギー制御技術の創出につながる可能性が高いとみている。今後は開発した計測・評価技術を用い、新たなスピンカロリトロニクス現象の開拓と、それに基づく熱電変換機能の実証に取り組む計画である。

 なお、今回の研究成果は、NIMS磁性・スピントロニクス材料研究拠点スピンエネルギーグループの内田健一グループリーダーや井口亮主任研究員、三浦飛鳥JSPS特別研究員および、産総研省エネルギー研究部門熱電材料物性グループの村田正行主任研究員らによるものである。

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