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「全てをMade in Chinaに」は正しい戦略なのか?専門家が警鐘を鳴らす(4/4 ページ)

» 2020年11月30日 12時15分 公開
[Amy GuanEE Times]
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ローカライズの限界

 米国の通信監視プログラム「PRISM」(編集注:Edward Snowden氏が、米国が米国家安全保障局(NSA)の通信監視プログラム「PRISM」に基づき、長年にわたって中国本土と香港のサーバをハッキングしていたことを暴露した)や、ZTEの件、Huaweiの件、米中間の貿易戦争など、これまでのさまざまな現実から、「サイバーセキュリティと国家安全保障の分野において数々の問題が発生すると、それが争いの根本原因になる」ということが度々明らかになっている。

 どの国も、自国の中核となる技術や機器の一部が他国によって制御されることを懸念している。こうした状況の中、多くの国々が、「“ローカライズによる置き換え(=自国製品による置き換え)”と“制御可能な独立ソリューション”を追求していくことが、自国にとっての最善の利益になる」と考えているようだ。

 そうなると、何が「メイドインチャイナ」を置き換えるのだろうか。

 Wei氏は、「数十年間にわたって中国市場を占有してきた一部の外国製品は、明らかに性能や速度の面で優れているため、ローカリゼーションプロセスは長期に及び、痛みを伴うものとなった。しかしわれわれは、それが必要であるということを強く主張しなければならない」と述べる。

 サイバースペースは中国にとって、陸と海、大気、空の4つの領域に続く、“5番目の未開拓分野”である。サイバースペースのセキュリティを確保することは、国家主権を保護することであり、その重要性は現在ますます顕著になってきている。ローカライズによる置き換えを戦争に例えるとすると、CPUやOS、データベースなどの基本的なハードウェアやソフトウェアは、制御可能な自立した“前線の戦場”であり、国家のネットワークセキュリティの基盤を保証する存在だといえる。

 Wei氏は、次のように指摘している。

 「中国の産業界は、これまで約2年間にわたり、ローカライズによる置き換えについて議論を重ねてきた。だが、限界を見極める準備もすべきではないか。半導体業界の主要なテーマは、『心を開いて協力し合うこと』であるべきだ。それに代わるものはない。

 中国と米国の半導体業界は、開発を目的とした競争を繰り広げなければならない。製品を中心に置くことにより、半導体業界の5つの主要分野である設計、製造、パッケージング、テスト、材料について再検討すべきだ。

 今後の展開としては、この5つの分野でバランスの取れたものにすべきではないか。現在、われわれは設計分野でやや先行しているが、材料分野は比較的弱い。それでも、時代はまだわれわれの側にある」

 Wei氏は、中国企業は設計およびファウンドリーのモデルが最良だと考えているため、IDM(垂直統合型デバイスメーカー)を輩出できていないとも指摘した。

 だが今、この見方は変わりつつある。“設計-ファウンドリーモデル”を追求し続ける一方で、IDMを精力的に展開していく時期に来ているのではないか。メモリのような典型的なIDM産業は、中国ではゆっくりと進歩している。

 その一例が、2016年7月に設立された、武漢に拠点を置くYangtze Memory Technologies Corporation(YMTC)だろう。2017年9月には、同社の主力製品である3D NAND型フラッシュメモリの工場が完成した。2018年10月に試作に入り、2019年から少量量産を開始。技術レベルも32層、64層と進化し、2020年には128層3D NANDフラッシュの開発に成功したと発表した。

 もう1つの例としては、2016年5月に設立された合肥のChangxin Memoryがある。DRAM製品を主力事業とし、2018年1月に工場が完成し、6月から試作を開始し、8月に歩留まりが20%に達し、10月には80%を超え、12月には量産を開始した。2019年秋には、19nmプロセス技術を適用して、8GビットのLPDDR4の生産を開始している。2021年には17nmプロセスが完成する予定だという。

 Wei氏は、中国はCOVID-19のパンデミックからいち早く立ち直り、中国経済は急速に回復していると述べた。一方で、米国による規制などで、多くの中国企業は米国製品の大量在庫を抱えるようになってしまった。こうした大量の在庫は、特に米国が新政権への移行を控えている中、リスクとなり得る。

やみくもな半導体市場参入への懸念

 最近、一部のチップ関連プロジェクトについて、市場で懸念が広がっている。「「経験がなく、技術もなく、才能もない(no experience, no technology, and no talents)」という「3つの“ノー”」がそろっている企業が半導体IC産業に参入しているからだ。IC開発を十分に知らず、やみくもにプロジェクトを立ち上げている企業もある。横並びの工場建設のリスクが顕在化し、個々のプロジェクトの工場建設すら滞っている。その結果、工場の中身は“空っぽ”のままで、資源の浪費を招いているという。

 2007年以降、中国のウエハー製造能力は急速に増加し、他の国や地域よりもはるかに高い。2019年、中国には199のウエハー製造ライン(4インチウエハー以上)があり、そのうち12インチウエハー製造ラインは28本、8インチウエハー製造ラインは35本(パイロットライン1本を含む)となっている。各地の工場への投資や建設への熱意は高いが、多くの製造プロジェクトが未完成のまま、操業停止に直面している。半導体産業の発展法則に反するやみくもな衝動は警戒に値する。

 Wei氏は、中国は謙虚に米国の半導体産業に学び、イノベーションへの投資を増やすべきだと強調した。1988年以降、米国は生産性の伸びと実質GDPの伸びの面で他国を大きく上回っている。技術の優位性により、米国企業はイノベーションの好循環を築くことができた。大規模な研究開発は優れた技術と製品をもたらし、その結果、より高い市場シェアとより高い利益率をもたらし、研究開発への投資をより多く行うことができるようになるのである。

Global Summit 2020の様子

【翻訳:青山麻由子、田中留美、EE Times Japan、編集:EE Times Japan】

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