産業技術総合研究所(産総研)は、平面上に作製した電子回路を壊すことなく、立体形状に成形加工できる技術「熱投影成形法」を開発した。機能性やデザイン性を損なわず、生産性も向上できることから、車載パネルやゲームコントローラなどへの適用を想定している。
産業技術総合研究所(産総研)人間拡張研究センター兼センシングシステム研究センターの金澤周介研究員らは2020年11月、平面上に作製した電子回路を壊すことなく、立体形状に成形加工できる技術「熱投影成形法」を開発したと発表した。機能性やデザイン性を損なわず、生産性も向上できることから、車載パネルやゲームコントローラなどへの適用を想定している。
車載パネルのような構造物は、立体曲面に電子回路が組み込まれている。こうした立体的回路を製造する方法として、MID(Molded Interconnect Devices)技術などが知られている。射出成形機を用いて作製した立体構造物の表面に、光描画プロセスで配線した後、ICチップなどを実装する方法である。この手法は高い集積度で回路形成ができる半面、コストに直結する生産性や大型構造物への対応などが課題となっていた。
今回開発した熱投影成形法を用いて立体回路を製造すると、これらMID技術の課題を解決できるという。熱投影成形法による立体回路の製造プロセスはこうだ。まず、平たんな熱可塑性の樹脂シート上に回路を形成し、ICチップを実装して電子回路を作製する。その後、ヒートプロジェクション処理によって、ICチップが実装されている領域は加熱せず、それ以外の領域のみを加熱して、シートを成形加工する。
従来の成形手法だと、熱可逆性シート全面を均一に加熱して軟化させ、これに金型を押し当てて成形加工していた。新たに開発した手法は、シート成形時に加える熱を部分的に遮断する。このため、非加熱の領域ではシートが軟化せず、回路破損につながるシートの延伸や屈曲を低減した。実装したICチップの破損や配線寸法の変化なども回避できるという。もちろん、回路の立体化と樹脂の成形加工が同時に行えるため、生産性が向上し製造コストを抑えることが可能となった。
産総研によれば、LEDチップに限らず、さまざまなセンサーチップや制御用マイコンなどを実装した回路基板の成形加工にも熱投影成形法は適用することができるという。今後、早期実用化に向けて企業との連携を強めていく考えである。
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