図6にM1の系譜を示す。M1は、突如として生まれたわけではない。2010年にAppleが自らの手でiPhone用のプロセッサ「A4」を開発し、「iPhone 4」に採用した。それから10年。Appleはその間、毎年プロセッサ性能を向上させ、iPhone、iPad、「iPod」「Apple TV」など多くの製品に活用し続けてきた。さらに、高性能なiPad Pro用に、GPUなどを強化したAシリーズのX版も並行して開発している。
Appleは10年という歳月をかけ、半導体開発の膨大なノウハウと経験を積み上げている。今やAppleは、専業メーカー以上の経験を持っていると言ってよいだろう。
M1は、2018年に発売されたiPad Proに搭載された「A12X」のパッケージ技術、同年にMacで採用されたセキュアプロセッサT2、そして2010年から登場したAシリーズの、全てのDNAが注ぎ込まれたものであることは間違いない。今後出てくるであろう、「M1X」や「M2」「M3」にもこれらのDNAが引き継がれていくことになる。
A14 BIONICとM1が、CPUやGPUコア数の差ですみ分けていることを考えると、ベースとなるものは同じで、スケーラブルな展開ができる構成になっており、8コアを12コア、16コアにすることは極めて容易だと思われる。
図7は、2020年に発表されたPCの、代表的なプロセッサの比較である(AMDは紙面の関係で省略)。それぞれが異なるプロセスで製造されているので、横並びの比較は完全にはできない。しかし同じ時代に、メーカーによって製造技術がバラつき、内部の構成配分も大きな差が出てきたことで、1990年前後の“乱立の時代”が再び到来したことを読み取っておくべきだろう。
Intelのプロセッサはシリコンのおおよそ6割がCPUとGPUだ。MicrosoftとAppleはArmベースのCPUを用い、内部のCPU、GPUの比率は4割弱となっている。同じものを作るのに、これだけの差が生じるのには理由がある。Appleはさまざまなアクセラレーター演算器とCPU、GPUを絡め性能を作り上げている。Microsoftも同様(主にDSP)だ。このあたりは今後セミナーなどで解説していく。
2021年は、各社からさらに個性のあるチップが出てくるものと思われる。弊社も観察や解析を強化していく。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に振り回された1年であったが、技術の分野では新時代にふさわしいチップが続々と誕生し、次の脈動が明らかになった年でもあった。コロナ収束を願いつつ、皆さまにとっても当社にとっても2021年が良き年になりますように。
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