ブロックチェーンを理解するための手掛かりとして解説してきた「ビットコイン」。今回は、残件となっていた「ビットコインを実際に使ってみる」という実証実験の結果を報告します。ビットコインを1ミリも信用することができない私にとって、これは最初で最後の実証実験となるでしょう。
「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー
前回のコラムで、「天皇制は与信システムである」と、通貨についてのレクチャーをして頂いた、「地域通貨研究のプロ」の主任研究員のMさん、通称『通貨フリークのMさん』から教えてもらったことの一つに、
―― 日本円は、世界有数の入手困難な通貨
が、あります。
Mさん:「江端さん。私たちが、勤め先以外のところから、日本円をもらう機会ってあります?」
江端:「……そういえば、「ない」ですね。確かに、私が勤務している会社がメインルートです」
借金は返済とセットで考えれば「日本円を入手した」とは言えませんし、競馬、競輪、パチンコ、宝くじは、胴元が利益を得られるように設計されている以上、むしろ「日本円を手放す」ために存在している、と言えます。
しかし、単純に、パソコンやスマホや各種のITサービスだけを考えても、私たちの生産性*) ―― という言葉を使うのには抵抗があるのですが ―― 例えば、(1)エクセルによる計算量の増加、(2)ワードによる報告書の量産、(3)「乗り換え案内サービス」による時間短縮、などを考えてみても、私たちの毎日の“生産性量”(ד生産性”)は増えています ―― 「爆上げ」といってもいいくらいです。
*)関連記事:「誰も知らない「生産性向上」の正体 〜“人間抜き”でも経済は成長?」
もっとも、この「爆上げ」の理由は、主にコンピュータの能力によります。
だとしても、私たちだって、このコンピュータ(というかパソコン)の能力についていくために、結構な苦労をさせられてきたはずです ――。
etc, etc……
―― ねえ、みんな! なんで、そんなにお行儀いいの? 私たちは、もっとコンピュータに当たり散らしてもいいと思うんだけど!!
なるほど、生産量は、コンピュータに因るものかもしれませんが、そのコンピュータの能力を発揮させる為の私たちの努力や苦労は、正しく反映されていないと思います。コンピュータなんぞ、私たちがいなければ、「タダの箱」なんですから。
でも、こんなに苦労しているのに、給料上がっていませんよね。もう絶望的なデフレの世界にドップリつかり続けて、はや20年以上 ―― 変だと思いませんか?
Mさん:「江端さん、それは簡単な話です。日本円の流通量が絶望的に少ないからです」
江端:「え? そういうことですか? だったら、日本円をもっと増刷しまくれば、いいじゃないですか?」
Mさん:「法定通貨は、流通量をコントールすることで、その価値を調整できます。いわゆる需要と供給の関係です」
江端:「はあ……」
Mさん:「つまり、日本円は流通量を抑え続けることで、世界中の人にとっての憧れの通貨、世界最強クラスの国際通貨として君臨し続けているのですよ。これは、世界のどこかで革命やら暴動やら政変が発生したら、即、日本円が買われて、円高になることからも明らかですよね」
江端:「じゃあ、私たちが、『完成直前の報告書や数値入力中にフリーズするワードやエクセル』で死ぬほど苦労しているのは、誰もが簡単に入手できないくらい円の価値を上げるためですか?」
Mさん:「おおむね、その理解で正しいと思います。だからこその「ビットコイン」なんですよ」
江端:「……?」
Mさん:「『生産量が2倍になったなら、通貨も2倍にする』ということです」
江端:「あ……つまり、『通貨がないなら、通貨を作ればいいじゃない*)』ということですか?」
*)1755年に処刑されたフランス国王の王妃を思い出させるフレーズです(俗説らしいですが)。
Mさん:「私には、ビットコインが、生産性を正しく反映しない法定通貨の運用管理者(国家権力)に対する、民衆の反乱に見えるのですよね」
反逆の通貨「ビットコイン」 ―― なに、それ、かっこいいいい。
ビットコインを擬人化したラノベ、アニメ、コミック*)、誰か創作してくれないかな。
「ビットコイン」と「法定通貨」が、株、社債、国債等の「債権」を巻き込んで、マーケットというフィールドで死闘を繰り広げる ―― うん、私なら本の表題だけで即購入します。
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