NTTは、光のエネルギー損失が極めて少ないオプトメカニカル素子を開発した。微小な機械振動子の内部に、希土類元素の発光中心を埋め込むことで実現した。機械振動を用いた光の増幅や発振が可能になるという。
NTTは2021年2月、光のエネルギー損失が極めて少ないオプトメカニカル素子を開発したと発表した。微小な機械振動子の内部に、希土類元素の発光中心を埋め込むことで実現した。これまで困難だった機械振動を用いた光の増幅や発振が可能になるという。
オプトメカニカル素子は、光を用いて機械振動子を検、制御することが可能である。その多くは、機械振動子に光共振器や光共鳴の構造を組み込んだ構成となっている。このようなオプトメカニカル素子は、光と機械振動のエネルギー損失時間によって、素子の振る舞いが決まるという。
従来のオプトメカニカル素子は、機械振動のエネルギー損失時間に比べて、光のエネルギー損失時間が短いため、光を用いて機械振動を制御することは可能であった。しかし、その逆となる機械振動を用いて光を制御することは極めて難しかったという。
NTTは今回、光のエネルギー損失時間が数ミリ秒と極めて長い希土類元素の発光中心を、機械振動子に埋め込んだ。これにより、機械振動のエネルギー損失時間よりも長く光がとどまるオプトメカニカル素子を実現。機械振動と光のエネルギー損失時間の関係性が従来とは異なるため、機械振動を用いた光の増幅や発振が可能になった。
実験に使った機械振動子は、希土類元素エルビウムを含むYSO結晶を、斜めからイオンビームで削る微細加工技術を用いて作製した。この機械振動子は長さ160μm、幅14μm、厚み7μmである。これを圧電アクチュエーター上に設置し、アクチュエーターに交流電圧を印加することで、機械振動子を固有周波数で共振させる。この共振により、機械振動子内部に局所的なひずみ(変位)が生じ、発光中心の光吸収波長が正弦波に変化するという。
ひずみに依存した光吸収・発光の様子を観測するための測定システムも新たに構築した。これを用いて、希土類元素の発光中心と機械振動とが相互作用した状態を観測することに成功した。測定時は機械振動子を液体ヘリウム温度(4K)まで冷却した。また、エネルギー損失時間も測定し、光の損失時間が機械振動の損失時間を上回った状態になっていることを確認した。
NTTは今後、開発したオプトメカニカル素子を用いて、光の増幅と発振現象の実証を行う。また、増幅された光を効率よく取り出すために素子構造を最適化していく。さらに、液体窒素温度(77K)や室温環境での動作に向けた研究にも取り組む。
将来的には、最先端の光関連技術や情報処理技術を活用してスマートな世界を実現するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想への応用を目指している。
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